中国に於ける移転価格の動向
背景
近年、中国で移転価格調査の対象となる日系企業が急増している。JETROによると、移転価格調査の対象となる企業は日系企業が圧倒的に多いという。その理由として、多くの日系企業は権限を本社に集中し、関連者間の取引価格を親会社が決めると中国税務当局から認識されており、親会社が意図的に所得移転を行っているとの印象を与えやすいと解説している。韓国企業(某社)・日系企業(大手セットメーカー)がAPAを行ったことで、取引関係にある会社の情報が流失している。その為、取引関係にある会社にまで調査が及んでいるケースも散見される。
移転価格の専門チーム
現在、中国は移転価格税制の適用を強化しており、特に深圳で取り締まりの強化が顕著だ。国税当局の移転価格税制を担当するのは渉外科8科と9科だが、北京の移転価格を担当していた専門チームも深圳の移転価格を取り締まるべく北京から深圳へ移動し駐在している。これは、深圳は香港と隣接しており、税率が低く、外貨規制のない香港の関係会社との取引を通じ香港へ意図的に利益を移動し、中国の納税額を低く抑えている企業が大部分を占めると税務当局が認識しているためだ。日経新聞は2006年12月記事で、広東省での移転価格税制の運用の厳格化が増しており、実際に国税当局は広東省にある事務機の現地工場に対して五%の見なし利益率(売上高に対する利益を事前に想定した比率)を適用し、それに見合った法人税を課すと通告し始めたと伝えている。8科、9科の科長の李氏両名は北京からの派遣であり、所謂華南式での解決方法では困難が伴う為、正攻法及び北京でのロビー活動が重要となる。
量から質へ
中国の移転価格調査の件数だが、「量から質へ」の転換が顕著となっている。98年度から本格的に移転価格税制を導入して以来、中国国家税務局による移転価格調査は加速度的に増加し、03年度は年間約1600件、04年度は1000件以上の移転価格調査件数が報告されているが、その件数は05年度には300件、06年度(1~9月)は220件と急減している。しかし、移転価格による追加徴収金額は右肩上りとなっているため、「広く浅く」徴収していた移転価格の徴収税額を有力企業から多額の徴収金額を追徴するよう、国税当局がポリシーを変更していることが伺える。「量から質」への変更は、国税当局の人材不足も要因と思われる。国税は華南地区で電子産業・自動車産業での知験を蓄えており、北上することは確実で、時間の問題となっている。特に華南と産業構造の似ている天津が次の候補地になっていると推測される。税務局は移転価格税制専用のソフトフェアの開発も行っており、不可解な動きをしている企業が機械的にリストアップされるようになっている。
法律の強化へ
08年1月1日からは、移転価格税制に関する新法規がでる。曖昧で不明確だった移転価格が明文化される事になる。
細則は公表されていないが、2008年4月からは移転価格税制についての文書化が企業に義務付けられる公算も大きい。そうなれば当局から文書の開示を求められた場合、企業側は移転価格の値決めルールなどを明確に示した資料を開示する義務が生じる。文書化の準備をしておらず、当局に資料を開示できない企業は罰則を受ける事となる。文書化の準備をしていない企業は早急に対策がもとめられる。
文書化
文書化しなければならない会社は、原則関連会社間取引のある会社すべてとなっている。企業規模に応じて、求められる文書化の内容・量が異なってくる。内容は、関連会社間取引の合理性を証明することができる文書が必要となる。特に、関連会社に対する各種コンサルティング費用、技術指導料、無形資産に対する支払いについてはその合理性を的確に説明できるよう準備する必要がある。税務局もこの点を重点的な調査、指導対象としている。
調査の対象
三高一低と呼ばれる企業は、重点的な調査対象となる。三高一低とは、売上高、投資金額が多く、ネームバリューがあるにも関わらず利益率が低い企業をいう。中国国内で事業展開をしている企業で、グループ企業の1社が査察に入られた場合、中国国内の他の関連会社すべてが調査対象となる。同時に調査を受けるのではなく、順次査察が入る場合が多い。グループ全体での準備を怠っていると、グループ内で矛盾する回答をしてしまう可能性が高くなる。国税は最初の対象企業から情報を収集し、準備不足の関連会社をなし崩し的に課税調整をする事が狙いなので、回答に矛盾点があると合理的な調整ができずに良好な結果を得ることができなくなる。故に、既に中国国内の関連会社が既に査察を受けていたり、税務局からコンタクトがあった場合は可及的速やかに他の関連会社も資料準備をする必要がある。
<課題>
一、 調査対応上の課題
関連企業向けの輸出取引価格を意図的に低く抑えているのではないかという指摘に対処するには、幾つか注意しなければならない点が存在する。税務当局は基本的に、国内販売の価格・同業他社の利益率を以って課税調整額を計算し、指導をする。その為、会社は国内販売の価格・同業他社との利益率の差が合理的な事由により生じていることを論理的・形式的にいつでも説明できるように資料を揃えて準備しておく事が必要である。
ここでのポイントは、会社は資料収集の目的をしっかりと認識し、目的に適った資料を準備することである。税務当局の要求資料を機械的に提出すると、税務当局に必要以上の情報を与えることになり、問題を大きくしてしまう可能性が生じる。また税務当局にその資料の整理と解釈に手間取らせ、課税調査が長期化する原因にもなる。不完全な資料では、税務当局を正しい判断に導くことができなくなり、満足の得られる結果を得ることが難しくなってしまう。故に税務当局に正しい判断をしてもらう為に、そして課税調査期間を短縮し発生コストを低く抑える為にも目的に適った資料の準備が肝要となる。
二、ビジネスモデルの構築の必要性
目的に適った資料の中で、ビジネスモデルに関する資料はとりわけ重要なものとなる。税務当局に会社が果たしている機能・負っているリスクの相違点等につき明確且つ合理的な説明をしなければならないからだ。故に事業の概要、組織の概要を正確に、論理的に説明できる物を作成しなければならない。税務当局は会社を完全な独立体として利益率の判定をしてくる傾向にある為、グループ全体の中の位置づけで正しい判断を下してもらえるよう交渉する必要がある。ビジネスモデルを構築・合理的な説明を当局に行わなければ、他の資料を提出しても当局の理解を得ることが難しくなる。その為、ビジネスモデルの構築・説明が大切になる。
三、財務諸表作成・分析の必要性
課税調整用の財務諸表の作成・分析をし、価格・利益率の差が合理的な事由により生じる事を証明しなければならない。税務当局に詳細な原価構成の資料を作成し、分析を通じて価格・利益率の差を説明しなければならないからだ。税務当局により原価更正・計算方法について指導を受けるが、会社が選択した方法がより合理性があるという事を証明する必要がある。説得しうるだけの計算資料の準備・証明ができない場合は、税務当局の指導通りに課税修正をしなければならなくなり、満足のいく結果を得られなくなる。故に、専門的な財務分析を行い合理的で論理的な資料の準備が重要となる。
四、文書化の課題・必要性
(1)法律上の文書化
中国でも米国・ドイツ等と同様に移転価格に関する文書化義務が課されることとなった。細則は未だ公布されていないが、その内容はアメリカ・ドイツ等と同じようなものになると合理的に推測される。一定条件以上の企業が文書化義務を負うことになると考えられるが、売上規模、資本規模ともに大きな会社の場合は該当すると推測される。目安としては、売上額が5000万人民元を超えるものとなる。但し、沿岸地区では5000万人民元規模の会社は無数にあるため、実務上は地域差が出ることになると推測される。この文書化の作業は膨大な時間を必要とし、また複雑なため、早めの対応が重要となる。
(2)課税調整を受けた後の文書化
課税調整に対応するために必要となる文書化は、税務当局の対応・要求、国税の思惑などに影響される為、その都度作成すべきものが異なる。故に、税務当局から的確に情報を収集し、必要最低限の文書化をする必要がある。提出資料の内容の一貫性を保つことが必要となる為、十分な資料を揃え、状況を分析し、まとめて提出することが重要となる。
(3)文書化の必要性
課税調整を受ける前に文書化を進めることが今後肝要となる。文書化をすることにより、非合理的な関連会社間取引を見直し改善することができる。税務局から指摘を受けた際に、迅速に資料を提出できることにより移転価格税制へ調査段階を上げることなく当期課税調整のみでの終了を狙うことができる。また課税調整段階へ発展し文書化を行っていなかった場合、過年度の価格・利益率の合理性を的確に説明する資料を集めることは非常に困難なものとなり、税務当局を説得しうるだけの資料が集められないことがある。故に、文書化することで上記の問題をクリアでき、最小限の範囲で課税調整を食い止めることが可能となる。
五、国税との交渉の課題
課税調整の指摘を受けた初期段階における税務当局への対応は、税務当局に正しい判断を下してもらう為に非常に重要となる。調査官による聞取り調査の段階から、状況を熟知している適切な人員が調査対応をすることが交渉を円滑に進める上で大切となる。提出資料と説明に一貫性がなければならず作業に困難が伴う為、適切でない人員の対応で問題をこじらせる可能性が高いからだ。故に調査範囲を限定的に終了させる為には、適切な人員の対応が重要となる。ケースによっては北京の国税局との直接交渉が必要となり、より複雑化する可能性がある。
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