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広東省高等法院が発表した、労働争議にまつわる典型例10件【後編】

 

 

 広東省高等人民法院が、公表した「労働争議にまつわる典型的な10件の判例」の判例6から10のご紹介。

 

判例六: 康氏 vs 某家具工場の労働紛争事件 

訴訟の常習犯に対する制裁事例

 【事件概要】

2018年9月3日、康氏が某家具工場に採用される。

 

2018年12月6日、康氏は労働関係の違法解除を理由に、家具工場に対して約14万元の賠償金の支払いを求めた。しかし、家具工場側は、康氏が工場で勤務したのはわずか3日間のみで、かつ職場では迷惑行為が酷かったための解雇であったと主張した。

 

司法査定の結果、康氏が提出した「出来高賃金確認書」において家具工場側の責任者(林氏)の署名後に、康氏がその内容に修正を加えた勤務実績の内容であることが分かった。

 

また、2013年以来、康氏は江西省贛州、福建省莆田、深セン、広州、東莞、恵州、中山、江門などで30件近くの訴訟案件に関わっており、その内、2018年だけでも、康氏は中山地区の労働仲裁機関及び人民法院へ、9社の雇用主を相手に10件の訴訟を起こしていた。

 

 

【判決結果】

中山市中級人民法院は、

 

「康氏が重要な証拠を改ざんし、訴訟において虚偽の陳述を行い、さらに頻繁に短期間で異なる雇用主と労働関係を結び、さまざまな理由で労働関係を解除した後、訴訟によって利益を図るという事実が康氏には存在している。」

 

と判断し、康氏が提出した証拠とそれに基づく請求を却下し、家具工場が認めた賃金額を支持した。同時に、中山中級人民法院は、民事訴訟の妨害を理由で康氏に5万元の罰金を科すことを決定した。

 

 

【典型的とされる要素】

労働者の立場を利用して事実とは異なる訴訟を故意に起こすといった本件において、人民法院は、法律に基づいて審査した結果、康氏の行為が誠実・信用の原則に厳重に違反していると判断し、その民事訴訟への妨害行為に対して処罰した理由は、労働者が誠実・信用のもとで訴訟を行うように指導するといった戒めの意味を込めての判決である。

 

 

判例七: vs.某宅配会社の労働紛争事件 

従業員が自家用車で配達する場合、事前に燃料費について取り決めがなければ会社負担

 【事件概要】

岑氏は2005年10月から、某宅配会社の配達員として自家用車で配達業務を行っていた。宅配会社は配送業務の安全性を考慮して会社が指定する特定の使用年数の基準を満たした車で業務をするよう要求をしていたが、岑氏がこの要求に従わず乗り換えていないことを理由に、岑氏との労働契約を解除した。

 

2017年12月、岑氏は、悪意のある労働報酬の不払いを理由に労働仲裁を申し立て、その後さらに訴訟を起こし、宅配会社へ本来受領すべき賃金との差額2万7千元および経済補償金10万3千元の支払いを要求した。そして、自家用車での配送業務にかかった費用2万5千元の車両燃料を宅配会社が負担すべきとして要求した。

 

 

【判決結果】

広州市中級人民法院は、下記のような判決を下した。

 

「当運送会社が配送の安全性を考慮し設定した、業務に使用する車両の使用年数の要求に対し、岑氏はそれに応じた車両へ乗り換えなかったことについては岑氏に過失がある。

また宅配会社においても長期間にわたり賃金を満額支払わなかったという落ち度がある。

労働契約解除の理由に対して双方の言い分があるものの、労働契約の解除自体については双方が合意したとみなすことができる。宅配会社は、要求通り賃金の差額分、労働契約解除に伴う経済補償金、そして岑氏の自家用車による配送業務で発生した燃料費2万5千元を負担すべきである。」

 

 

【典型的な意味】

この案件は、新産業における労働者の法的権利と利益を守るためのものである。業務の過程において、サービス提供に必要となる道具は雇用主が提供し、労働者は労働力のみを提供することが一般的である。

 

本件では、労働者は労働力を提供しただけでなく、労働者の自家用車により配達業務が遂行された。業務上必要であるこの車両の燃料消費の負担について当事者間で合意がない場合、雇用主は労働者の車両の燃料費を負担すべきであるとされている。

 

 

 

判例八: 謝氏vs.某飲食会社の労働紛争事件  

雇用主はコロナ禍の操業停止期間における賃金や生活費は正確に計算の上、支給しなければならない

 【事件概要】

2019年10月、謝氏は、お菓子作りのスタッフとしてある飲食会社に採用され、月給は5,800元だった。新型コロナの影響により、飲食会社は謝氏に対し、2020年2月1日から、暫くの間会社に来て勤務する必要がないと通知し、同年3月10日、謝氏に労働契約の解除を通告した。

 

謝氏は、当飲食会社に対し、2020年2月1日から3月10日までの賃金(生活費を含む)と賠償金の支払いを求め、労働仲裁を経て、訴訟を起こした。

 

 

【判決結果】

広東省高級人民法院は再審において、下記のような判決を下した。

 

「{広東省賃金支払規則 第39条}に基づき、当飲食会社が一時的に操業停止した場合、最初の1カ月間、謝氏は通常の賃金である月給5,800元を受け取る権利がある。その後も飲食会社が謝氏の就労を手配しなかった場合、現地の最低賃金基準の80%以上の金額を生活費として支払わなければならない。

ゆえに、飲食会社の一時的な操業停止により謝氏が働けなかった2020年2月1日から3月10日までの期間(41日間)に対して、一律で現地の最低賃金率の80%で生活費を計算することはできない。」

 

 

【典型的とされる要素】

本件は、新型コロナウイルスの流行時に発生した労働争議事件である。関連規則によると、雇用主の一時的な操業停止期間が1つの賃金支払い周期(最大30日)を超えた場合、期間に分けて従業員に賃金と生活費を支給しなければならない。

 

初回の賃金支払い周期内では通常の賃金が支払われ、それ以降の期間では現地最低賃金の80%以上の金額で生活費が支払われることになる。本件は、新型コロナウイルスの流行時に、労使関係を安定させるための指針となるものである。

 

 

判例九: 朱氏vs.某クリエイティブ会社の労働争議事件 

コロナ影響を受ける場合、仲裁時効を緩和

 【事件概要】

2019年2月15日、朱氏はとあるクリエイティブ企業を退職し、1年以上たった後の2020年4月20日に、労働仲裁を申し立てたが、労働仲裁機関は、1年間の仲裁時効を過ぎていることを理由にこの申し立てを却下。

 

朱氏は、クリエイティブ会社を退職した後、東莞にあるホテルに就職したが、このホテルは、2020年2月6日から関係当局によって検疫ホテルに指定され、その日から2020年4月13日まで、疫病による政府収用期間中は従業員が外出しないように求められていた。

 

朱氏は労働権利を主張して人民法院に訴訟を起こし、この状況を証明する証拠を提出した。

 

 

【判決結果】

韶関中級人民法院は、下記のような判決を下した。

 

「朱氏の仲裁申請の時効は、当クリエイティブ企業から退職した2019年2月15日から1年として計算されるが、朱氏は、2020年2月6日から2020年4月13日までの間、他の客観的な原因により仲裁を申請することができなかったことを証明する十分な証拠を提出しているため、仲裁時効はこの期間については中止されるべきである。

前述の期間において仲裁時効は中止され、その期間後の2020年4月14日から引き続き計算される。そのため朱氏は2020年4月20日に労働仲裁を申し立てたので、中止期間を差し引くと1年の仲裁時効は超えていない。」

 

とし、最終判決では朱氏の主張が支持された。

 

 

【典型的とされる要素】

新型コロナウイルスの流行時に発生した労働争議において、疫病予防・対策が要因となり、労働仲裁機関や人民法院に適時に法的権利を主張できない労働者が存在していた。

 

このような場合、当事者が疫病の影響といった不可抗力の原因により、法定の時効期間内に労働争議の仲裁を申請できなかったため、時効の算定は中止し、その原因が取り除かれた後、引き続き計算するものとする。

 

 

 

判例十: 万氏vs.某市政府の社会保障処罰に対する行政不服審査決定に関する争議事件 

未成年者を採用する場合、雇用主として責任を負わなければならない

 【事件概要】

万氏は2002年2月1日生まれで、2017年にオペレーターとしてある会社に入社した。万氏は2018年1月5日の22時に退社の際、n−ヘプタンで手を拭いた後、タバコに火をつける際に誤ってn−ヘプタンに点火してしまい、火傷を負った。

 

万氏の父親は、市の社会保障局に申請し、会社に一括賠償金の支払いを命じることを求めた。社会保障局は処理決定を下し、会社に万氏への一括補償金の支払いを命じた。同社はこれを不服として、市政府に行政不服審査を申請した。市政府は、社会保障局の処理決定を取り消し、新たに処理を行うよう命じた。その後、万氏は、この行政不服審査の決定に対して訴訟を起こした。

 

 

【判決結果】

広東省高等人民法院は再審において、下記のような判決を下した。

 

「{児童労働禁止規定}には、雇用主は16歳未満の未成年者を雇用してはならないと明確に規定されている。また、{労働災害保険条例}では、雇用主が児童を労働させたことが原因により、児童労働者が障害または死亡した場合、雇用主は児童労働者または児童労働者の近親者に一括払いの補償を行わなければならないと規定している。

今回の案件では、①万氏は作業の締めくくりとして仕事の後に手を洗っていた。②未成年であるため、n−ヘプタンの危険性と安全な使用方法についての認知度が低かった。③雇用主が燃焼・爆発の危険性が高いn−ヘプタンの管理及び使用をしっかりと監督していなかった。というような要因を考慮した上で、法律に基づき万氏に一括払いの補償金を支払うべきである。」

 

再審の判決は、行政不服審査の決定を取り消し、同時に市の社会保険局からの「期限付け是正決定書」の法的効力を回復させた。

 

 

【典型的とされる要因】

「児童労働禁止規定」と、「労働災害保険条例」は、いずれも未成年者を雇用した雇用主に特別かつ厳格な責任を課している。本件は、未成年者の正当な権利・利益を最大限に保護し、社会の指針となるものである。

 

 

※注:

当記事は広東省高等人民法院公式アカウントから転載、和訳したものです。中国語原文は以下のリンク先となります。

広東省高等法院が労働争議の典型的な10事例を発表

 

 

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