2025年中国人件費・賃金動向について – 日系企業の人事戦略への示唆
皆様、こんにちは、青葉広州事務所です。
2026年5月15日、中国国家統計局は2025年の都市部事業所雇用者年平均賃金を公表しました。そこで今回の記事では、このデータを日系企業の人事・経営戦略の視点から整理・分析いたしますので、ご参照ください。
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全体概況 ── 賃金上昇は続くが伸びは緩やかに
2025年の全国都市部における年平均賃金は以下のとおりです。
| 区分 | 2025年平均年収 | 前年比(名目) | 月額換算 |
| 非民間事業所 | 129,441元 | +4.3% | 約10,787元 |
| 民間事業所 | 71,590元 | +3.0% | 約5,966元 |
実質成長率(物価変動調整後)は非民間が4.2%、民間が2.9%でした。いずれもプラス成長を維持しているものの、民間事業所の伸びは非民間を下回っています。
ここでいう民間および非民間の違いですが、中国国家統計局の賃金統計における「城镇非私营单位」と「城镇私营单位」の日本語訳であるため、日本の感覚での「公的部門 vs 民間部門」とは異なります。含まれる企業単位は以下の通りです。
| 区分 | 中国語原語 | 含まれるもの |
| 非民間事業所 | 城镇非私营单位 | 国有企業、城镇集体企業、有限責任会社、株式会社、その他内資、香港・マカオ・台湾投資、外商投資など |
| 民間事業所 | 城镇私营单位 | 中国国内の私営法人単位(私営有限責任公司、私営股份有限公司、私営合伙企業、私営独資企業など) |
つまり、中国統計でいう「民間」は中国国内の私営企業を指し、「非民間」はそれ以外の法人です。そのため、非民間には国有企業だけでなく、外資系企業や港澳台投資企業も含まれるため、「外商投資企業」である日系企業は非民間に含まれることに注意が必要です。
そのため、非民間企業の平均年収がより日系企業の賃金水準との比較において、民間企業よりも近い数字となります。そして、最も近い区分としては非民間の中の「外商投資企業」になります。
日系企業がより近い比較対象 – 「外商投資企業」
非民間事業所の中でも、さらに細分化された区分となる「外資投資企業」が、日系企業における比較対象として最も近い区分です。
2025年 外資投資事業所 平均年収:164,956元(前年比+4.4%)
| 区分 | 2025年平均年収 |
| 非民間事業所 (全体) | 129,441元 |
| ∟ 外資投資事業所 | 164,956元 |
ただし、この「外資投資企業」の平均に含まれている企業は「一定規模以上」である大企業のみが対象となっており、中小企業は含まれない点に注意が必要です。
日系企業の皆様もひしひしと感じられているご状況だと思いますが、全体的に人件費は引き続き上昇基調にあります。ジェトロの調査でも、在中国日系企業が経営上の問題点として最も多く挙げたのは「従業員の賃金上昇」(67.0%)です。
また上記に挙げた外商投資企業の中には、金融、ITなど高賃金セクターが混ざっていたり、地域として東部と内陸では大きく異なるため、完全な比較対象ではないことに注意が必要です。賃金の地域差と業種の差については後述いたします。
そのため、もう一つ比較対象としてご検討いただける数値としては、全体の数字とはなりますが、ベースアップのみの平均昇給率は、2024年実績で製造業3.2%、非製造業3.5%、2025年見込みはそれぞれ3.0%、3.3%となっている点もあります。
地域別賃金 ── 東部とその他地域の格差が顕著
先ほど挙げた記事の中で、東部と内陸ではその賃金に地域差がある点に触れましたがが、以下がその地域別の平均年収となります。
非民間事業所(地域別)
| 地域 | 2025年平均年収 | 前年比 |
| 東部 | 149,902元 | +4.3% |
| 西部 | 114,989元 | +4.2% |
| 東北 | 103,803元 | +5.0% |
| 中部 | 102,645元 | +4.6% |
民間事業所(地域別)
| 地域 | 2025年平均年収 | 前年比 |
| 東部 | 80,149元 | +3.3% |
| 西部 | 60,923元 | +1.5% |
| 中部 | 58,627元 | +2.2% |
| 東北 | 54,430元 | +2.6% |
大都市である北京や広州そして上海などの沿岸部は東部地域に属しているため、その賃金は他の地域を大きく引き離しています。特に非民間事業所では東部と中部で約4.7万元の差が生じています。
中国に進出された日系企業の皆様の多くは、この東部沿海部に集中していいるため、東部がその比較対象となり企業が多いかと思いますが、もしも内陸部へ拠点をシフトすることをご検討されている場合、物流コストやサプライチェーンとの兼ね合いに加え、この地域ごとの賃金水準の差についても検討の対象になるかと思います。
業種別賃金 ── IT・金融が依然として高水準
こちらも先に触れた業種別の賃金格差が分かる業種別平均年収表となります。
非民間事業所で年平均賃金が高い上位業種
| 順位 | 業種 | 2025年平均年収 | 前年比 |
| 1 | 情報伝送・ソフトウェア・ITサービス | 248,752元 | +4.1% |
| 2 | 金融業 | 211,164元 | +4.6% |
| 3 | 科学研究・技術サービス | 182,064元 | +3.8% |
| 4 | 電気・熱力・ガス・水道供給 | 160,897元 | +7.1% |
| 5 | 医療・社会福祉 | 146,266元 | +2.2% |
民間事業所で年平均賃金が高い上位業種
| 順位 | 業種 | 2025年平均年収 | 前年比 |
| 1 | 金融業 | 140,451元 | +3.8% |
| 2 | 情報伝送・ソフトウェア・ITサービス | 128,166元 | +4.0% |
| 3 | 科学研究・技術サービス | 83,560元 | +1.4% |
| 4 | 鉱業 | 79,169元 | +4.2% |
| 5 | 製造業 | 76,055元 | +6.4% |
注目点:
- IT・金融業は非民間・民間を問わずトップクラスの高賃金を維持
- 製造業は民間事業所で前年比+6.4%と高い伸びを示しているため、冒頭であげたベースアップのみの製造業平均昇給率の引き上げの一因となっている。
- 不動産業は非民間で▲2.4%、民間で▲4.7%と唯一のマイナス成長業種
製造業の人件費上昇率も上がっていますが、IT人材の獲得コストが高くなっているため、もしもDX化にかかりデジタル人材の採用等を検討されている場合については、相応の予算確保が必要な点に注意が必要です。また、一方で不動産業の低迷においては、オフィス等の賃料の交渉材料となる可能性もあります。
職種別賃金(一定規模以上企業) ── 管理職と専門職の賃金格差
こちらは、従業員数や売上高が一定基準以上の大企業のみが対象として含まれている数値ではありますが、従業員の昇進する際の賃金の検討材料の1つとして利用できる2025年度職種別賃金表です。
| 職種区分 | 2025年平均年収 | 前年比 |
| 管理職(中層以上) | 210,016元 | +3.4% |
| 専門技術者 | 155,491元 | +5.0% |
| 事務職および関連職種 | 94,936元 | +1.9% |
| 生産製造および関連職種 | 80,739元 | +2.8% |
| 社会生産サービス・生活サービス従事者 | 79,857元 | +2.9% |
専門技術者の伸び(+5.0%) が全職種で最も高く、中国の産業高度化に伴う技術人材への需要増を反映しています。専門技術者の賃上げ率が高いことは、技術系人材の確保・定着に向けた競争が激化していることを示しています。
また管理職と一般職の賃金格差は約2.2倍(210,016元 vs 94,936元)と、日本の感覚よりも管理職プレミアムが大きいため、従業員の職位を、管理職へと昇進する際に昇給の度合いに注意が必要です。
またこの外資系企業(香港・マカオ・台湾投資企業、外資投資企業)の管理職賃金は内資企業の2倍以上(香港・マカオ・台湾投資企業:357,258元、外資投資企業:437,539元)に達しているため、外資系にはそれだけ高い人材コストが求められる市場環境にあります。
日系企業が押さえるべきポイントとまとめ
① 賃金上昇は構造的トレンド
中国の総人件費は年率5%前後のベースアップと社会保険料の上昇が複利で効くため、約14年で2倍になるとの試算もあります。「安い労働力」を前提としたビジネスモデルは既に成立しません。
② 都市間・業種間の賃金格差を活用
東部沿海部と内陸部の賃金差は依然として大きいです。業務内容に応じて拠点を分散する戦略も有効でしょう。
③ 専門人材の獲得競争に備える
専門技術者の賃金上昇率は5.0%と全職種で最高です。競合他社(特に外資)との報酬比較を定期的に行い、市場相応の処遇を確保する必要があります。
④ 毎年の賃金改定を前提とした予算計画
在中国日系企業の2025年予測昇給率は約4.1%とされています。少なくとも3〜5%の年次賃金上昇を織り込んだ中長期計画が求められます。
2025年の中国賃金データが示すのは、「成長は続くが、その速度は鈍化しつつある」という市場の現実です。日系企業にとっては、単なるコスト増加ではなく、人材投資の最適化という戦略的視点でこのデータを捉えることが重要となります。
特に、専門人材への投資と地域分散戦略は、今後の中国事業の競争力を左右する大きな要素となります。今後の中国事業の戦略について専門家の意見が必要な場合は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
参考リンク先:
本記事の目的:
本記事は、主に中国本土や香港へ進出されている、またはこれから進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、中国本土や香港での経営活動や今後のビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
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