パッと分かる。改めて見る香港の税制について

香港の税制は、世界的にも稀に見る低税率とシンプルな制度で知られています。
近年、国際税務環境は大きく変化しており、各国で税制改正やBEPS対応*が進み、香港でも同様とはなっておりますが、依然としてシンプルで競争力のある税務制度を維持しています。
本記事では、改めて香港の税制の特徴、特に法人税・個人所得税の仕組みについてご紹介します。
*BEPS(税源浸食と利益移転)対応とは:
多国籍企業が、各国の税制の違いや抜け穴(租税条約や国内法の不一致など)を利用して、以下の2つのように、合法的だが不公正な租税回避を行うことを指します。
・税源浸食: 本来課税されるべき国(経済活動が実際に行われている国)の課税標準(利益)を減らすこと。
・利益移転: その利益を実際の経済活動がほとんど行われていない低税率国やタックスヘイブン(租税回避地)に人為的に移転すること。
その結果、多国籍企業の実効税率が不当に低くなり、本来得られるべき税収が各国(特に市場国)から失われるという国際的な問題に対し、OECD(経済協力開発機構) と G20 が中心となって、国際的な共通ルールづくりを進めており、日本や香港を含む多くの国々は、このBEPS対策を進めています。
香港税制の主な特徴
- 香港内源泉の収入のみを課税対象とする源泉地課税制度(Territorial Basis)を採用している。
- 全世界所得課税制度(Global Basis)ではないため、海外所得は非課税。(国外所得免除方式)
- 法人税の標準税率は16.5%。(二段階税率適応の場合を除く)
- 個人所得税(Salaries Tax)の標準税率は15~16%。
- 消費税、相続税、キャピタルゲイン税*がない。
- 税務上の損失は無期限で繰り越し可能。
- 銀行利息収入は基本的に非課税扱い*。
- 親会社への配当時に源泉税が発生しない。
*キャピタルゲイン・利息収入の課税について:
FSIE制度により、一部の受動的所得(受取利息、配当、キャピタルゲインなど)については、FSIE(Foreign-sourced Income Exemption)制度の適用により、課税対象となる可能性があります。
二段階税率の適応について
法人税の標準税率は、上記の通り16.5%と日本や中国と比較して低い設定となっておりますが、さらに税率が低くなる二段階法人税率措置が2018年4月1日より正式に導入されました。
これは、納税者、特に中小企業の税負担を軽減するとともに、香港への海外からの投資における競争力をより高めることを目的とされており、法人及び非法人企業( パートナーシップ及び個人事業主)の両方に対して、課税対象利益の最初のHK$200万に対する税率が一律半減となります。適用税率は下表の通り:

制限事項
同一グループ内での事業の過大な再編成や、課税収益を分散させるなどの二段階税率措置の乱用を防ぐために、当条例では、関係企業の中で、二段階税率を適用できるのは、一課税年度において1社のみに制限されています。
なお、2025/26年度から香港はミニマムトップアップ税(HKMTT)の導入により、直前 4 事業年度のうち 2 事業年度以上の連結売上高が 7.5 億ユーロ以上である多国籍企業(MNE)グループについては、トップアップ税の徴収を香港が優先的に行い、最低税率 15%が課されます。
個人所得税
個人所得税は累進課税率と標準税率で計算した税額の低い方が適用されることになり、高所得者(独身の場合、年収HKD200万強(約3800万円)以上)であれば標準税率適応の方が税額が低くなる仕組みです。
また、個人所得においては人的所得控除制度も整備されているため、もしも年間の個人所得金額が、基礎控除132,000 HKD未満の所得であれば免税となるなど、居住者にとっては税負担が軽くなります。
大多数の個人が適用となる累進課税制度は、上記の基礎控除後の所得に対して以下のように段階的に課税されることになります。
累進課税率(2024/25) | |
最初の50,000 HKD: | 2% |
次の50,000 HKD: | 6% |
次の50,000 HKD: | 10% |
次の50,000 HKD: | 14% |
残りの所得: | 17% |
そして標準税率については15%と非常に低かったためか、2024/25年度からは二段階制になり、純所得が500万香港ドルを超える部分に対しては16%が適用される制度が導入されました。
標準税率(2024/25以降) | |
最初の5,000,000 HKD: | 15% |
5,000,000 HKD超過分所得: | 16% |
実務上の留意点と活用
海外のグループ会社への資金繰りにおいて香港法人を活用する際、今回ご紹介した税制上の優遇を活かすことができますが、外貨規制の少なさであったり、国際金融センターとして融資や与信枠の設定が柔軟であるなど財務面での優遇も検討に値します。
このように香港法人を活用する際の注意点としては特に、グループ会社再編や国際取引においては移転価格税制を遵守し、実体のないペーパーカンパニーと見なされないよう、実質的な事業活動について対応するなどが必要となります。グループとしての資金効率や税務リスクの軽減を図る事ができるため、最新の動向しつつ、香港法人の機能を見直すことが推奨されます。
まとめ
香港の税制は、低税率かつシンプルな制度により、企業や個人にとって依然として非常に魅力的な環境を提供しております。
一方で、ペーパーカンパニーなどの実態のない会社での運営を検討されている場合は、昨今の国際税務の影響により、上記のような税制度が適用されない事もあり、運営コスト面も考慮してしっかりとした事前プランニングが必要となります。
弊社では、香港法人の見直しや活用方法に関するご相談や会社設立に関するサポートに加え、進出前のアドバイスなどにも対応させていただいておりますので、いつでもお気軽にお問い合わせ下さい。
参考リンク先:
Tax Rates of Salaries Tax & Personal Assessment
Foreign-sourced Income Exemption
Global minimum tax and Hong Kong minimum top-up tax for multinational enterprise groups
本記事の目的:
本記事は、主に香港へ進出されている、またはこれから香港進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、香港での経営活動や今後の香港ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
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