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よくある監査の相談事項シリーズ 第四回 未配当利益であっても認識しなければならない税費用について

 

弊社では香港へ進出されている多くの企業に対して会計監査を行っているため、日々様々なご相談をいただきます。その中から、多くの企業からいただいたご相談事項を、「よくある監査の相談事項シリーズ」と題しまして、皆様の監査のお悩み解決の一助となることを願い、ご紹介していきたいと思います。

 

第四回目となります今回は、「未配当利益であっても認識しなければならない税費用について -香港会計基準HKAS第12号「法人所得税」」と題しまして、ご紹介させていただきます。

 

 

こんな税金も費用として認識しなければならないの?

香港会計基準(以下、HKAS)の第12号では、主に会計上、当期に費用認識しなければならない「法人所得税」がいくらになるかという基準について規定されています。また、この「法人所得税」の中には、香港内のみならず、香港外で発生しているものの香港企業が負担しなければならない税金も含まれます。

 

そのため、こんな税金も費用として認識しなければならないのか!?と、よく驚かれてしまうケースがあります。

 

 

 

よくあるケース「子会社からの未配当金に対する課税の引当金」

例えば香港社が100%出資している中国子会社があるとします。そして、

 

・香港社は中国子会社より毎年配当金の支払いを受けており、

・202X年12月末時点の内部留保はHK$10,000,000で、

・親会社である香港社に配当金として分配(配当)可能な状態

 

となっている場合、香港監査基準HKAS第12号「法人所得税」に基づき、未分配利益(内部留保)は、将来的に支払う可能性のある配当金として、それに対して中国側で課税される源泉税の引当金を計上する必要があります。

 

 

 

なぜ認識しなければならないのか?

ポイント1. 毎年投資先からの配当金が支払われている事が確認されている

毎年子会社である中国社から配当金が支払われているため、それに対して中国で課税される源泉税も将来的に発生する見込みがあるため、それに備えて引当金を計上する、ということになります。

 

 

ポイント2. 香港社が負担しなければならない税金である

HKAS第12号「法人所得税」39項では、以下のように規定されています。

 

企業は、子会社、支店および関連会社に対する投資、ならびに合弁会社の持分に関連するすべての課税一時差異について、繰延税金負債を認識しなければならない。

 

 

この子会社、関連会社等の投資に関連した、香港法人の法人所得税となる代表的な税金の例が、先のケースのような親会社である香港社へ配当金を支払う際に、中国現地で親会社の法人所得税として課税される源泉税が該当します。

 

そして、この課税一時差異というのは、将来的に発生するであろう源泉税で、実際には当期においてまだ発生していないけれど、会計上では認識し、税務上では発生時に認識することになるため、一時的に会計上と税務上の間で差異がある状態を意味します。

 

そして繰延税金負債というのが引当金に当たり、実際に源泉税が発生するまで繰延べられる負債、ということになります。

 

 

 

仕訳と財務諸表への影響について

仕訳:繰延税金負債の計上処理について

先ほどのケースを例にした場合、HKD10,000,000の内部留保全額に対して源泉税の税率を乗じることになります。中国の配当金に対する源泉税の税率は10%ですが、中国香港間の租税協定における優遇措置を適用することが出来れば、5%まで軽減できます。

 

今回のケースを仮に優遇税率が適応できたとした場合

 

HKD HKD10,000,000 × 5% = HKD500,000 の繰延税金引当となります。

 

(借方)        (貸方)
法人税 (P/L) :HKD500,000 / 繰延税金負債(BS):HKD500,000

 

内部留保金額全額を配当するというケースは、通常資金繰りや投資ニーズ、またグループ全体の財務状況等を鑑みた場合、現実的に発生しにくいかと思いますが、未分配利益(内部留保)に係る将来的に発生する見込み税金を認識する事は会計上正しくあり、会社の決算報告書がより正確に会社の状態を反映しているといえます。

 

 

 

財務諸表への影響は「法人税」が増加してしまう

実際にはまだ発生していない税費用を認識することになるため、PL (損益計算書)の、税引前利益の後に費用計上される法人税部分が増えるため、純利益の数字が減少します。

 

(PL表示例)

税引前利益 (Profit before taxation) HKD3,000,000
法人税 (Taxation) HKD500,000
純利益(Net profit) HKD2,500,000

 

ただし、あくまでも帳簿上認識される費用/引当計上となりますので実際にキャッシュアウトされるわけではありません。

 

 

 

繰延税金負債計上の免除規定について

HKAS第12号-39項では、以下両方の条件を満たす場合は繰延税金負債を計上する必要はないとしています。

 

(a) 親会社、出資者、合弁会社または共同経営者が、一時差異を解消する時期をコントロールできること

(b) 一時差異が予測可能な将来において解消しない可能性が高い

 

 

先ほどのケースを例にすると、香港社が中国社の配当方針をコントロールしており、一時差異が予測可能な将来にわたって解消しない可能性が高いと判断される場合は、投資先の未分配利益に関する繰延税金負債の計上が免除されます。

 

以下は、免除に関連する規定です。

 

香港監査基準HKAS第12号「法人所得税」40項

親会社は子会社の配当方針を支配しているため、その投資に関連する課税一時差異を解消する時期を支配することができる。さらに、一時差異が解消した場合に支払われる法人税額を決定することは、現実的でない場合が多い。従って、親会社がその利益を予測可能な将来に分配しないと判断した場合、親会社は繰延税金負債を認識しない。

 

 

香港監査基準HKAS第12号「法人所得税」43項

合弁会社の当事者間の取り決めは、通常、利益の分配に関するものであり、そのような事項の決定が当事者全員または当事者のグループの同意を必要とするかどうかを特定するものである。合弁会社または共同経営者が、共同の取決めの利益分配のタイミングをコントロールでき、かつその利益分配が予測可能な将来において行われない可能性が高い場合には、繰延税金負債は認識されない。

 

 

しかしながら、今回のケースのような投資先から定期的に香港社へ配当を行っている場合は、実績として課税一時差異が予測可能な将来にわたって解消されると判断される傾向にあり、HKAS第12号の免除規定を満たす可能性は低いと考えられます。

 

 

 

最後に

前回の記事でも触れましたように、昨今監査監督機関である会計・財務報告審議会(AFRC)による監査品質管理の引き締めが厳しくなっており、監査法人として企業の財務報告書がより真実かつ公正、また適正に会計基準に基づき作成されているかを確認する事がより一層要求されております。

 

弊社グループでは、日本人経営者へは日本語での会計基準の説明とローカルスタッフのご担当者へは広東語での会計処理の説明など、クライアントとしっかりとコミュニケーションを取り、会計基準に準じた最善となる会計処理のご説明をさせて頂いております。

 

もし、監査対応や会計処理につきお悩みがございましたら、いつでもお気軽にご連絡ください

 

 

 

 

 

 

【参照元リンク先】

HKAS-12「Income taxes」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本記事の目的:

本記事は、主に香港へ進出されている、またはこれから香港進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、香港での経営活動や今後の香港ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。

 

免責事項:

  1. 本資料はあくまでも参考用として作成されたものであり、法律や財務、税務などに関する詳細な説明事項や提案ではありません。

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