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【2022年度版】広東省高等法院が発表した、労働争議にまつわる典型例10件【前編】

中国へ進出されていらっしゃる日系企業の皆様にとって、中国での人事は、対応方法を一つ間違えてしまうだけで「労働争議」に発展しかねないため、常に気を配らなければならないトピックの一つではないでしょうか。この「労働争議」について、今年も広東省高等人民法院が、実際におきた10の事例を公表いたしました。これらの事例には、

 

  • 労働関係
  • 労働報酬
  • 経済補償金
  • 典型的な労働争議
  • 新産業における雇用をめぐる争議
  • コロナ期間中の労働者と雇用主との間の紛争

 

など多岐に渡るトピックについて網羅しているため、是非ご参考ください。(*昨年度の記事はコチラから。)

 

 

事例1 某メディア系企業 vs 李氏の労働争議案件

法に基づきネット配信者の労働関係となる従属関係を認定

 

【事件概要】

2019年6月、某メディア系企業は李氏と「独占芸能マネージメント契約」を締結した。李氏は同社の契約芸能人とする一方で、李氏は毎日8時間勤務し、釘釘(*企業用アプリ)で出勤時間を記録され、会社の手配によりショートビデオの撮影という役務に従事した。また会社は毎月李氏に「賃金」を支給し、会社が規定する比率に基づいた収益を分配すると約束した。その後、李氏は労働仲裁を提起し、これは契約関係ではなく労働関係(雇用関係)であると主張し、また会社に経済補償金の支払いを要求した。

 

 

【判決結果】

深圳市中級人民法院は、会社が李氏に対して勤怠管理を実施し、李氏の仕事内容、仕事手順、仕事成果の提示方法も決定し、李氏の成果物を保有し、収益分配も規定し、李氏に賃金を支給するといった内容は、李氏が会社の各種規則や制度を遵守し、かつ李氏が仕事の内容、手順、成果などに対する決定権、支配権、主導権を持たず、その役務は会社の業務の構成部分に該当すると判示し、双方が実際に履行した内容は労働関係の法的特徴に合致するため、双方は労働契約関係を構成していると判決した。

 

 

【事例として公表された要素】

ネット配信者は新業態の従事者であるが、労働関係の基本的な特徴を適用して労働関係を構成するか否かを認定しなければならない。

本件は、双方の間に人格的従属性、経済的従属性があるか否かにおいて、双方が労働関係であるかその他の関係であるかを分析し、ネット配信者の労働関係の認定に模範的な役割を提供し、ネット配信者の法的権益を保障すると同時に、オンライン経済の盛んな発展を促進することにも有利である。

 

 

 

事例2 張氏親族 vs 貨物運輸会社の労働関係確認案

企業内部の請負契約は労働関係の認定に影響しない

 

【事件概要】

張氏は2017年にある貨物運輸会社に配達員として入社した。2019年9月15日、張氏は宅配場所で配達準備中に急死した。張氏の親族は、張氏と貨物運送会社との間に労働関係があることを確認するため裁判所へ提訴した。裁判審理中、貨物運送会社は張氏は2019年6月に貨物運送会社を退職しており、また退職後に貨物会社が2019年3月以降一部エリアを発注している向氏に雇用され、向氏が請負っているエリアで、引き続き荷物の受け取り・配達作業を行っていたため、張氏が死亡した時にすでに貨物運送会社の従業員ではなかったことを証明しようと、貨物運送会社は向氏と締結した請負契約及び張氏が自ら提出した辞表を提出した。

 

 

【判決結果】

仏山市中級人民法院は、貨物運送会社から張氏との労働関係が解除されたことを証明する十分な証拠を提出していないとし、本件の証拠を総合的にみると、向氏が貨物運送会社の従業員であり、その請負場所での荷物の受け取り・配達作業は貨物運送会社内部の経営管理方式の変更に該当し、貨物運送会社の独立した雇用主体としての地位は変わっていないと認定できるため、張氏と貨物運送会社と、2017年11月1日から2019年9月15日までの期間に労働関係があったと判決した。

 

 

【事例として公表された要素】

新就業形態には、雇用主が自身の優位な地位を利用して、内部請負などの経営モデルで主体責任を回避するなどの不適正な行為が存在している。

本件は、企業が新就業形態においても法律に従って労働者を雇用することの提唱と、労働者の合法的権益を保障することに有利であることが分かる。

 

 

 

事件3 梁氏 vs 某自動車会社の労働争議案件

雇用主は虚偽の労務派遣により主体責任を回避してはならない

 

【事件概要】

梁氏は2010年11月6日に某自動車会社に入社した。自動車会社は某コンサルティング会社の名義で梁氏と労働契約を締結する一方で、梁氏の賃金は自動車会社から支給していた。自動車会社とコンサルティング会社は2015年8月1日に「労務派遣協議書」を締結したが、労働報酬の金額と支払方法などの重要事項については約束をしていない。なお、コンサルティング会社は労務派遣の資質を有していないため、梁氏に対して一切管理を行っていなかった。梁氏は自動車会社が労働関係を解除したことで労働仲裁を申請し、経済補償などの支払いを求めた。

 

 

【判決結果】

広東省高級人民法院は、コンサルティング会社は梁氏に対する管理をしたことがなく、双方の労働関係への合意が成立していない。また自動車会社が虚偽の労務派遣を通じて主体責任を回避する行為は無効である。梁氏と自動車会社は書面による労働契約を締結していないが、梁氏は自動車会社の規則制度に基づいて自動車会社の労働管理を受けており、従事する仕事が自動車会社の業務の構成部分であり、賃金報酬も自動車会社から支払われているため、双方は実質的な雇用関係の特徴を有していると判示し、自動車会社と梁氏との間に労働関係が成立し、自動車会社が雇用主の主体責任を負うことと認定した。

 

 

【事例として公表された要素】

雇用主が虚偽の労務派遣を通じて主体責任を回避する行為は信義誠実の原則に違反し、労働者の合法的権益を侵害している。

人民法院は、双方の実質的な法律関係に基づいて審査・認定を行い、実際の雇用主が相応的な主体責任を負うことと判決するものとする。

 

 

 

事例4 某繊維会社 vs 侯氏の労働契約紛争案件

雇用主は、コロナによる休業期間中に自分の身(生活等)を守るため、従業員がアルバイトしたことを理由に労働関係を解除してはいけない

 

【事件概要】

コロナの影響により、某繊維会社は、従業員の侯氏に、2020年1月から6月までに休暇をとるようアレンジし、且つ2020年4月以降は、最低賃金基準の8割にて給与を支給していた。2020年5月から、候氏は、他の会社でアルバイトをし、社会保険を納付していた。この状況が繊維会社に発覚した後、繊維会社は2020年5月26日に、直ちに是正するよう、侯氏に通知を送り、是正が見られない場合、自己責任になることを要求した。2020年7月1日に、侯氏は繊維会社に復帰したが、繊維会社は侯氏と既に労働関係を解除したことを理由に、仕事のアレンジを拒否した。侯氏は労働仲裁を提起し、繊維会社に、労働契約の違法解除による補償金の支払いを求めた。

 

 

【判決結果】

中山市中級人民裁判所は、繊維会社がコロナの影響を理由に、候氏に半年近くの休暇を手配することによって、候氏の生活に深刻な影響を与え、両者間の労働契約が、雇用主側の都合で正常に履行されなくなり、休暇期間中に、侯氏が他の会社で臨時アルバイトをすることは、この期間中において自分の身を守る行為であり、侯氏の繊維会社における業務遂行にいかなる影響を与えず、侯氏は、休暇満了後に繊維会社へ復帰することが、法の規定に違反することではないとの見解を示した。従い、繊維会社は、候氏との労働関係を解除したことを理由に、仕事のアレンジを拒否した根拠が不十分であるため、候氏に対し相応の責任を負う必要がある。

 

 

【事例として公表された要素】

コロナ期間中は、雇用主側が経営困難になったと同時に労働者にも深刻な影響を与えたため、労働者が合理的な範囲内で自分の身を守る措置を取ることは許されるべきである。

本件は、コロナ期間中において発生する労働争議の対応に対し、模範意義を有する。

 

 

 

事例5 張氏 vs 某鋼管会社の労働争議案件

雇用主は、合理的に従業員管理権を行使すべきである

 

【事件概要】

某鋼管会社の従業員である張氏は、2020年11月15日(日曜日)に、義母の葬式に参加するための休暇取得について鋼管会社へ電話で連絡したところ、会社は書面の申請書を提出するよう張氏へ求めた。張氏は、2020年11月15日の夜に広州を離れ、2020年11月21日(土曜日)の午後に広州へ戻った。2020年11月23日、会社は三日間の無断欠勤を理由に、張氏との労働関係を解除した。張氏は、裁判所へ会社を起訴し、労働契約の違法解除による補償金の支払いを求めた。

 

 

【判決結果】

広州市中級人民裁判所は、張氏が故郷に帰り、義母の葬儀に出席するために休暇を取ったことは、中国の伝統的な道徳や良い習慣に沿ったものであり、且つすでに鋼管会社に対して電話で休暇申請の手続きを履行し、会社は電話の中で、張氏の休暇申請を明確に拒否しておらず、書面での休暇申請手続きを行う必要があることだけを示唆した。また、張氏の列車の切符には、移動時間が4日かかる事を示していること、そして広州に戻ったのは土曜日の午後であり、また日曜日は勤務時間ではなく状況において、月曜日に出社した張氏に対し、会社は書面での休暇申請手続きを補足して行う機会を与えず、直ちに解雇を決定したことについて、合理性を欠くとの見解を示した。従い、鋼管会社に、張氏へ労働関係の違法解除による賠償金を払うよう判決を下した。

 

 

【事例として公表された要素】

本件において、労働者が書面での休暇申請手続きを履行しなかったのは客観的な理由によるものであり、恣意的に雇用主の就業規則に違反した事実が存在しなかったと思われる。

雇用主は、従業員管理権を行使する際、関連規定に則る必要がある一方、社会の一般常識に則る必要もある。

本件の審判は、雇用主が合理的に従業員管理権を行使するよう導くことを示唆するものである。

 

 

 

 

上記内容は、広東省高等人民法院公式アカウントより掲載した記事に基づき、翻訳させていただいた日本語参考訳文でごあり、日本語と中国語版とのあいだに何らかの齟齬があった場合、 中国語によるものとします。

 

オリジナル(中国語版)のリンクはこちら:广东高院发布劳动争议十大典型案例

 

 

 

 

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