香港法人に義務付けられているSCR(Significant Controllers Register)実質支配者台帳とは

香港における実質支配者情報の管理は、2018年3月1日から全ての法人に義務付けられました。この取り組みは、企業の透明性を高め、マネーロンダリングやテロ資金供与といった不正行為を防止することを目的としています。今回は、その取り組みとして作成ならびに保管が義務付けられることになった実質支配者台帳「Significant Controllers Register(SCR)」の概要や重要性、関連する義務について詳しく解説いたします。
実質支配者台帳とは
実質支配者台帳とは、対象会社である香港の企業を実質的にコントロールしている特定の法人や個人を示す情報が記載された台帳です。この台帳には、以下のような情報が含まれます。
- 実質支配者の名前
- 所在地や連絡先情報
- 支配権の内容(持株比率や議決権など)
この台帳は、各企業・取締役の責任のもとで作成・保管され、関連当局から開示を求められた場合には、いつでも提示できるようにしておく必要があります。
背景
香港は外資が参入しやすく、ビジネス環境が整っていますが、この利点が同時に不正行為に悪用されるリスクも持っています。2014年に、香港の大手銀行の口座からテロ組織への送金が行われていた事が発覚し、これが規制強化のきっかけとなりました。このように、テロリストの資金調達やマネーロンダリングに使われる温床にもなり得るということで、「香港も先進国としてきちんと法を整備するように」という国際的な圧力が高まり、実質支配者情報の入手や開示といった管理が義務化されたのです。
実質支配者の判断基準
実質支配者は、以下の条件のいずれかに該当する法人または自然人とされています。
- 株式資本の25%超を保有: 直接または間接的に株式を持つ者。
- 株主議決権の25%超を保有: 議決権を持つ株主。
- 取締役会の大多数を任命・解任する権限を有する: 直接・間接的に取締役の選任や解任を行える者。
- 実質的な支配権限を有する: 企業を実質的にコントロールする権限を持つ者。
そしてこの台帳は香港域内で保管する義務がありますが、会社登記所に提出する必要はありません。ただし、保管場所の住所は登記する必要がある点にご留意いただく必要があります。例えば自社で台帳を保管している会社の場合、オフィスを移転した場合などはこの台帳の保管場所の登記変更が必要になることを覚えていただければと思います。
ペナルティと監査
会社登記所から抜き打ちの訪問調査や警察、金融監督庁といった関連当局から開示の要求が行われることもあります。実質支配者台帳が未作成であったり、記載内容が不正確であったりした場合、会社や取締役は法的なペナルティを受ける可能性があるため、企業の取締役の方は特に注意が必要です。
任命代表者の必要性
実質支配者台帳に関する法執行機関からの開示の要請に応じる「任命代表者」を、企業は設置する必要があります。この任命代表者は、会社秘書役員や弁護士などが務めることができます。
もちろん、取締役が代表者となることも可能ですが、その場合は香港在住であることが前提になりますので、日本からの出向取締役が代表者となる場合は、異動辞令などに応じてその都度代表者のご確認および適宜実質支配者台帳の更新を行う必要があります。
顧客デューデリジェンス(KYC)の義務
実質支配者台帳の作成に加え、弊社のような会社秘書役員業務を提供しているサービスプロバイダーや、銀行、そして監査法人や弁護士法人などの重要役務提供者には顧客デューデリジェンス(KYC)の実施が義務付けられています。これには、クライアント企業の背景や関連当事者について確認する必要があるため、以下のような確認要素などが含まれます。
- クライアント企業の取締役や最終受益者の身分証明書や住所証明書の確認
- 資金の出どころの確認
特に、最終受益者が実質支配者である場合、身分証明書や住所証明書などの証明書類は適切・入念に確認を行うことになります。例えば実際に最終受益者と対面での面会による本人および証明書の原本確認が難しい場合などは、行政書士や公証人役場などで証明書類の写しにおいては原本証明等でご対応いただくことになります。
まとめ
実質支配者台帳の登録制度は、香港の企業にとって極めて重要な規制となっております。実質支配者の情報を正確に管理し、法的義務を履行することは、企業の信頼性を高めるだけでなく、法的リスクを軽減するためにも不可欠となります。
我々青葉グループでは、実質支配者台帳の作成や保管、また任命代表者として任命いただくことも承っております。香港および中国にて、法令を遵守しながら、安心してビジネスを展開できるよう、専門的なアドバイスを提供しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせ下さい。
参照元WEBサイト:
Companies (Amendment) Ordinance 2018 – Significant Controllers Register
本記事の目的:
本記事は、主に香港へ進出されている、またはこれから香港進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、香港での経営活動や今後の香港ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
免責事項:
- 本資料はあくまでも参考用として作成されたものであり、法律や財務、税務などに関する詳細な説明事項や提案ではありません。
- 青葉コンサルティンググループ及びその傘下の関連会社は、本報告書における法律、法規及び関連政策の変化について追跡報告の義務を有するものではありません。
- 法律法規の解釈や特定政策の実務応用及びその影響は、それぞれのケースやその置かれている状況により大きく異なるため、お客様各社の状況に応じたアドバイスは、各種の有償業務にて承っております。
※当サイトの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。