「天空の都市」への探検-深圳前海における「低空経済」の急速発展【大湾区情報レター Vol.95】
- 公開日 2025.10.24 | 大湾区(グレーターベイエリア)情報
「大湾区情報レター」では、今後、日系企業の皆様に有用と考えられる最新情報をピックアップしお届けしていきます。
低空経済は、世界的に競争が激化する兆規模の新たな市場となっています。深圳市の前海区は、産業布局、インフラ、技術革新、政策支援など様々なの面において、低空経済の新たな拠点として急速に発展しています。
深圳前海管理局は、今後前海が「香港の特色、国際的な風格、海浜の風情、現代性、未来的感覚」をテーマに、低空経済分野における技術、業態、モデル、制度のイノベーションを加速し、「空域開放、シナリオイノベーション、産業集積、深圳・香港連携」という発展体制を構築し、中国全国の低空経済に向けた「前海モデル」を探求し、新たな生産力の競争において加速を図ると表明しました。
Contents
前海に集積する低空経済関連企業
豊翼科技(深圳)有限公司(以下「豊翼科技」)
毎日午前10時半、豊翼科技のドローンが前海の低空域で頻繁に離着陸し、同市および都市間の配送任務を効率的に遂行している。
順豊グループ傘下の企業として、同社はすでに深圳に168機のドローンを配置し、383の運航路線を持ち、1日平均の飛行便数は600~700便に上り、昨年からは医療救急物資輸送など多様な任務を担っており、積載量、航続距離、海上横断飛行において中国全国のトップクラスとなっている。
零重力深圳飛機工業有限公司(以下「零重力」)
零重力は2021年に設立された国家ハイテク企業で、新エネルギー航空機の研究開発に専念し、前海蛇口のI-FACTORY(価値工廠)に拠点を置いている。
深圳初の大型有人eVTOL(電動垂直離着陸機)製造企業である同社は、「ZG-ONE 鵲飛」(鵲:カササギ)モデルの前海での研究開発、生産を決定し、現在の意向受注数は約1,500機に達している。
主力の初号機eVTOL「鵲飛」は、最大2人乗りで、5分間でのバッテリー交換、自動障害物回避、機体全体脱出用パラシュート射出機能を備え、2026年に型式合格証の取得、2027年には量産と納品を予定しており、年間約100機を生産し、観光、短距離シャトル、緊急救助などの用途を想定している。
澤芯未来科技有限公司(以下「澤芯」)
澤芯は、前海に中国国内最大規模のドローンテストと競技訓練センターを建設し、技術テスト、飛行訓練、競技運営、研究教育、eスポーツを一体化した「ソフトウェア・ハードウェア開発+シミュレーター開発+競技教育」の完全なエコシステム構築を目指している。
機体全体の80~90%以上のコア部品(フライトコントローラー、電子スピードコントローラー、バッテリーなど)はすべて自社開発で、開発したシミュレーターソフトウェアは海外企業の独占状態であった局面を打破した。
深圳零零無限科技有限公司(以下「零零科技」)
零零科技は2015年に設立され、世界で初めてスマートフォンチップをドローンに応用し「スマート追跡飛行カメラ」という新しいカテゴリーを開拓した企業である。
170件以上の特許を保有し、アルゴリズム、飛行制御などの重要分野で先行し、製品は欧米、日本市場に販売されている。
法人の登録住所は深圳市前海深圳香港協力区内にあり、従業員は全世界で350名以上、研究開発人員の割合が過半数を占め、累積資金調達額は1億米ドルを超える。
上記企業以外にも、前海には広東省垂直離着陸機製造イノベーションセンター、科比特航空技術(MMC)、北斗伏羲(iWhere)など低空経済関連の川上、川下各優良企業が集まっており、技術研究開発、機体製造、物流運輸、シナリオ応用、飛行テスト、耐空性サービス、展示、レース大会、操縦士養成など産業チェーン体系が初步的に構築されています。
企業がこぞって前海を選ぶ理由
立地優位性
澤芯は、前海の「中国と世界を結ぶハブ」としての地位に注目しています。
豊翼科技は、前海を大湾区ドローンの物流ネットワークの重要拠点と位置づけています。
また、零重力が深圳への拠点設置を選んだ主な理由は二つあります。第一に、民航中南地区管理局がマルチローター機の耐空性審査で豊富な経験を持ち、第二に、深圳がDJIなどのドローン企業を抱え、産業基盤が強固で、市場化とイノベーション能力に優れ、ブランド優位性が顕著であることです。
さらに、前海には科技人材が集積しており、都市、空港、港湾、商業施設、公園、跨海大橋など多様なシーンが備わっており、低空経済に豊富な応用空間を提供しています。
政策支援と企業サービス
前海は、賃料減免、人材向け住宅などでの支援に加え、積極的に企業の政府リソースとの連携サポートを提供し、越境飛行、空域管理などの制度的ボトルネックの解決を推進しています。
低空経済の未来:深圳・香港融合+グローバル展開を推進
2024年の「低空経済元年」以来、深圳は全国初の低空経済法規を制定し、中国初の市レベル低空経済標準化委員会を設立、世界初のスマート融合低空システムを開発するなど、法規、標準、技術、シナリオが連動するエコシステムを構築しました。
2024年末時点で、深圳の低空経済における一定規模以上企業の付加価値額は213億8,000万人民元と26.4%増となっており、2025年第1四半期の付加価値額は58億7,000万元と22.3%増となっています。
前海は、現在、宝安区に大鏟湾、低空運営本部基地などの集積地を建設し、南山区に低空パイロット区及びモデルプロジェクトを展開するなど、低空産業全体の展開を進めています。前海は、宝安区、南山区と連携し、企業に対して研究開発、シナリオ、航路、空間など様々な政策支援を提供し、最高で1億人民元以上の支援を行います。
飛行制御、通信、航空管制などのコア技術に焦点・金融機関による低空金融商品の開発を奨励
次のステップとして、前海は低空政策の革新と深圳・香港クロスボーダー協力を推進し、チェーンリーダー企業や研究プラットフォームの誘致を図り、飛行制御、通信、航空管制などのコア技術に焦点を当て、金融機関による低空金融商品の開発を奨励し、「出海e站通」を利用したワンストップサービスを提供します。
同時に、深圳と香港低空飛行政策の連携と空域管理改革を探求し、ドローン物流の越境テストと路線拡大を推進し、より多くの高付加価値シーンをカバーします。
豊翼科技の陳孝輝氏は、同社が深圳及び前海を中心に中山、珠海などへの路線拡充を計画し、蛇口―香港間のドローンの物流試験を推進し、クロスボーダー物流や島嶼部への物資補給、園区内物流などの高付加価値シーンの開拓を行うと示しました。
澤芯の蔡怡澤氏は
「弊社は既に100名以上の優秀な操縦士を育成しており、競技スポーツだけでなく、警察の警備防犯、映像の空撮、新型文化観光などの応用分野にも人材を送り出しています。市場規模も毎年数十倍の成長を見せており、将来性が期待できます」
と語りました。
零零科技の欧陽瀟均氏は、市場の見通しに大きな自信を持っており
「従来の空撮ドローン市場はほぼ頭打ち状態だが、スマート追尾撮影分野には巨大な潜在力を秘めています。AI技術によってカメラがより『能動的』になるにつれ、将来のユーザー規模は数十万単位から数百万、更には数千万単位に拡大する可能性があります。」
と述べました。
【参考資料】
*本記事が記載されている大湾区レターは、以下のリンク先からダウンロードしていただけます。
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本記事の目的:
本記事は、主に中国へ進出されている、またはこれから中国進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、中国国内での経営活動や今後の中国ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような国家・地方レベルの最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
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