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【中国労働法シリーズ】②労働契約が未締結であった場合に支払う、2倍賃金が免除される事由、明確に規定

 

先日、【中国労働法シリーズ】「労働争議解釈(二)」が社会保険未納に与える衝撃、という記事を発表させていただき、中国最高人民裁判所より公布された「労働争議案件における法律適用に関する解釈(二)」(以下、「解釈」という)及び関連の典型判例についてご紹介させていただきました。

 

今回は、本シリーズの二回目の記事として、「解釈で明確に規定された労働契約未締結時の2倍賃金免除事由」というテーマをめぐって、ご紹介いたします。各企業様、特に労務関係のお悩みを抱えられている企業様のお役に立てれば幸いです。ぜひ、ご一読ください。

 

 

 

一、解釈で明確に規定された労働契約未締結時の2倍賃金免除事由

中国「労働法」では、

 

「使用者が法律に従って労働者と書面労働契約を締結しなかった場合、労働者に対し月単位で計算した賃金の2倍を支払わなければならない

 

と規定しています。しかし、今回の解釈で、初めてこの2倍賃金の支払い免除の事由が明確化され、「労働契約未締結=企業必ず2倍賃金支払」という堅固だった判断基準が変更となり、免除事由を証明できた場合、企業側の2倍賃金支払の義務はなくなります。

 

 

免除事由に関する【規定】

第七条 労働者は、使用者が書面による労働契約を締結しなかったことを理由に、2倍賃金の支払を請求した場合、人民裁判所はその請求を支持する。ただし、使用者が以下のいずれかの事由を証明できた場合は除く。

 

(一)不可抗力により締結できなかったこと、

(二)労働者本人の故意または重大な過失により締結できなかったこと、

(三)法律・行政法規で定めるその他の事由。

 

 

青葉の解説

実務上、「免除事由」に該当するいくつの代表的な事例としては、以下があげられます。

 

不可抗力により締結できなかった状況:

自然災害(地震、台風、洪水など)、戦争・暴動、伝染病の大流行などにより事務所閉鎖、など

労働者本人の故意または重大な過失により締結できなかった状況

従業員が会社からの連絡やリマインドなどを無視してわざと労働契約の締結を拒否、

人事担当者が自らの職権を利用して労働契約の締結を免れる、など

法律行政法規で定めるその他の事由

女性従業員の「妊娠期・出産期・授乳期」における労働契約自動延長、など

 

 

 

二、典型的な判例

続きまして、解釈とともに公布された、「労働契約未締結時の2倍賃金免除事由」に関わる典型的な判例を、ご紹介します。

 

 

A氏と某ホテル・某農旅会社との労働争議事件

労働者が故意に書面労働契約を締結しない場合、使用者は2倍賃金支払義務を負わない

 

 

【基本案情】

2018年12月11日、A氏は某康旅会社(以下「同社」という)と労働契約(契約期間:2018年12月11日~2023年12月10日、職務:財務部責任者)を締結した。契約満了後、同社は、契約更新について、口頭及びWeChatで何度も連絡したが、A氏は「会社が解散するので契約しなければ2倍賃金が得られる」と拒否した。

 

2024年4月30日、双方は、「労働契約解除協議書」を締結し、A氏の2024年4月30日までの賃金・報酬を完払済みであることを確認できた。また、A氏の2024年4月までの社会保険は支払済み、経済補償金は2024年4月30日締めを基準に算定した。

 

2024年5月、同社は登記抹消となり、その権利・義務は某ホテルが承継した。某農旅会社は同社の株主である。A氏が某労働人事争議仲裁委員会に仲裁を申請し、某ホテル及び某農旅会社に対して書面労働契約未締結による2倍賃金の支払などを請求した。某労働人事争議仲裁委員会は受理しない旨の通知書を発行した。A氏はそれを不服として人民裁判所に提訴した。

 

 

 

【裁判結果】

裁判所は、某康旅会社とA氏との労働契約が満了した後も、A氏が勤務を継続し、某康旅会社が従前の労働契約に基づき労働報酬を支払、且つA氏の社会保険料を負担していた事実を認定した。その間、某康旅会社は繰り返しA氏に対し書面労働契約の更新を求めたが、A氏はそれを拒否していた。

 

そのため、A氏が故意に書面労働契約を締結しなかったことにより、某康旅会社が2倍賃金の支払義務を負うことはなく、その権利・義務を承継した某ホテル及び株主である某農旅会社も責任を負わないと判断された。裁判所は、A氏の2倍賃金支払等の請求を棄却する判決を言い渡した。

 

 

 

【判例解説】

「労働契約法」第82条は、「使用者が労働者の雇用開始日から1ヶ月を超え1年未満の期間に書面労働契約を締結しなかった場合、労働者に対し月毎に2倍の賃金を支払わなければならない。使用者が本法の規定に違反して無固定期間労働契約を締結しなかった場合、無固定期間労働契約を締結すべき日から月毎に2倍の賃金を支払わなければならない」と規定している。

 

書面労働契約未締結時の2倍賃金支払のルールは、労働者の合法的権益を保護し、使用者の法的義務履行を促すための規定であり、不誠実な者に不当な利益を与えるべきではない。本件では、労働者が故意に書面労働契約締結を拒否した場合は2倍賃金支払ルールを適用できないことを明確にし、明確な価値観を体現するとともに、誠信原則に反する行為を制約・懲戒し、労働者と使用者が自発的に法的義務を履行するよう導くものとなる。

 

 

 

 

三、リスク軽減のための対策

上述の背景を踏まえ、実務上、法務リスクを低減するための、いくつかの対策をご紹介しますので、ご参考ください。これらの対策の主な目的は、従業員との労働契約締結を推進するとともに、万が一従業員が契約締結を拒否した場合でも、「労働者本人の故意により契約を締結しなかった」ことを証明する証拠を残すことにあります

 

入職当日労働契約締結

「契約未締結者は就労不可」制度を全社において適用

 

 

労働契約更新アラート:

契約満了60日前に社内システムでアラート発信の設定、人事担当者より個別フォロー

 

 

弁護士立会い:

労働契約締結・更新の拒否の労働者には、弁護士立会いの下でその事実を記録

 

 

 

労働関係の管理は、企業にとって、特に製造業など数多くの従業員を雇用する企業にとって、重要な課題の一つとなります。労働関係に関わる最新の法規を熟知し、適切に活用して予防措置などを講じ、リスクを事前に低減することが肝心となりますので、本記事をご参考頂き、その一助となれば幸いです。

 

最後に、弊所青葉法律事務所は、華南地域における労働関係処理に関して豊富な経験を有しております。ご不明点やご要望などがございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考リンク先:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本記事の目的:

本記事は、主に中国本土や香港へ進出されている、またはこれから進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、中国本土や香港での経営活動や今後のビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。

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  1. 本資料はあくまでも参考用として作成されたものであり、法律や財務、税務などに関する詳細な説明事項や提案ではありません。
  2. 青葉コンサルティンググループ及びその傘下の関連会社は、本報告書における法律、法規及び関連政策の変化について追跡報告の義務を有するものではありません。
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