香港施政報告解読:北部都会区構想を強力加速、黄金とデジタル資産が未来を切り開く【大湾区情報レター Vol.96】
- 公開日 2025.12.12 | 大湾区(グレーターベイエリア)情報
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9月17日、香港特別行政区行政長官李家超氏は、就任後4回目となる施政報告を発表しました。テーマは「改革深化、民生重視、強みの発揮、未来共創」です。
今回の施政報告は、北部都会区の発展、金融市場の整備、住宅保障など複数の重点分野を網羅し、香港特区政府の改革深化と発展促進における包括的布陣を示しています。
Contents
北部都会区の実行段階に焦点
北部都会区構想は2021年の施政報告で初めて提唱され、計画によると約300平方キロメートルの面積におけるイノベーション・テクノロジー産業を経済エンジンとする都市区となる見込みです。
李家超氏は、北部都会区は深圳と隣接し、面積と将来の人口が香港全体の約3分の1を占める新たな戦略的開発区域であり、巨大な経済価値と発展ポテンシャルを有し、多くの雇用創出と生産性向上を期待できると述べました。
今回の施政報告では「北部都会区発展委員会」を設立し、同地区の発展、産業誘致、プロジェクト実施を大きく加速させるという方針が示されました。委員会の主席は行政長官が務めます。
委員会の下には財政司司長が統括する「発展・運営モデル設計部会」「計画・発展作業部会」、政務司司長が統括する「大学タウン計画・建設部会」の三つの作業部会が設置されました。
団結香港基金の土地・住宅研究主管を務める梁躍昊氏は
「今回の北部都会区発展委員会の設立は、行政長官の指導的役割をさらに強化し、特区政府が北部都会区の発展を高度に重視していることを示しています。同委員会は各特区政府部門の協働をより効果的に統括します。北部都会区の発展は複数の異なる政府部門が関わり、従来は機能が比較的分散し、プロセスの連携に不足がありました。委員会の設立は部門間の分業と協力を効果的に促進し、全体の作業効率を向上させることができます。」
と述べました。
李家超氏は、特区政府が行政措置を簡素化し規制を緩和し規制緩和を進める方針を示しました。具体的には、迅速な承認制度の導入、各地の優れた建築手法の採用、海外及び中国本土の成功事例に基づく建設技術・資材・設備の活用による工事コスト削減と工期短縮が含まれています。
李氏はさらに、香港が北部都会区の発展加速化のための特別法規を制定し、特区政府に簡素化された法定手続きの策定を認める方針を示しました。具体的には、主に以下の内容が含まれています。
- 法定園区法人の設立
- 園区内法人への資金注入のための特別予算枠設置
- 人流、物流、資金流、データ及び生物サンプル流通を含む効率的な指定地域内における越境移動管理を行い、科学研究及びハイエンド製造業の香港進出を誘致
- 建築計画図の承認手続き迅速化
- アウトラインゾーニングプラン(OZPs:香港における個別の計画地域における土地用途や開発規制)における用途規制緩和と開発パラメータの微調整
- 土地収用補償金支払いの加速化
梁躍昊氏は
「今までの施政報告では北部都会区のトップレベル計画に重点を置かれていたことが多かったのに対し、今年の施政報告は北部都会区に関する内容が明らかに実行段階へと移行しています。具体的な行動に焦点を当てた記述が増えただけでなく、実質的措置もより多く提案されており、北部都会区の発展がビジョンから実践へと移行し、市場に明確なロードマップを提供していることを示している」
と述べました。
海外企業の香港セカンダリー上場促進
今年に入り香港株式市場は好調を維持し、ハンセン指数は年初来20%以上上昇、日平均取引額は約2,500億香港ドルで前年同期比ほぼ倍増しました。8月末時点で新規株式公開(IPO)による資金調達額は累計で1,300億香港ドルを超え、前年比約6倍増となり世界第一位に立ちました。
資本市場の発展に関して、今回の施政報告では、香港政府が「科技企業専用窓口」を通じて中国本土の科学技術企業の香港での資金調達を支援し、中国のハイテク強国建設に対する金融面での支援を強化すること、メインボード上場と構造的商品の発行メカニズムのさらなる改善、「同株異権」上場規定の最適化検討、株式決済サイクルのT+1への短縮の模索、より多くの海外企業の香港でのセカンダリー上場の推進、中国概念株が香港を優先的な回帰先とすることを支援することが示されています。
資本市場の発展計画に加えて、今回の施政報告は新たな成長点の加速的発展と国際的な金取引市場の確立も提唱しています。
香港での金保管施設の拡充を推進
施政報告では、香港政府が香港空港管理局と金融機関に対し、香港での金保管施設の拡充を推進し、3年で2,000トンを超えることを目標に、地域的な金備蓄のハブを構築を目指すことが明らかにされました。
香港はまた、黄金取扱業者の香港における精錬所開設、拡張を推進するとともに、中国本土と協力し現地での来料加工(材料の無償支給による加工)を検討し、精錬された金を香港に輸出し取引及び決済に利用できるようにします。
これに加え、香港は香港金中央決済システムを設立し、国際基準の金取引に効率的で信頼性の高い決済サービスを提供するとともに、上海金取引所に参加を呼びかけ、将来的な中国本土市場との相互接続への準備を整えることが明記されています。
同時に、施政報告では、香港が金投資商品の充実を図り、発行人が金ファンドを発行すること、トークン化された金投資商品などの新商品の開発、業界による金業界協会の設立を支援し、特区政府や規制当局との交流プラットフォームを構築し、「一帯一路」顧客への宣伝・誘致を強化するとともに、人材育成を強化すると明記されています。
デジタル資産取引及び保管サービスに関するライセンス制度立法案を策定中
その他、市場で活発に議論されているステーブルコイン分野について、施政報告では、香港がステーブルコイン発行者制度を実施を進めており、デジタル資産取引及び保管サービスに関するライセンス制度立法案を策定中であることが示されました。同時に、香港証券先物委員会(SFC)も、投資家を十分に保護することを前提に、専門投資家向けのデジタル資産商品とサービスの種類拡大の検討を進めています。
「賃貸」から「持ち家」へ
民生の向上は現特区政府による施政の重点事項の一つとなっています。施政報告では、市民の基本的な住宅需要を保障することが施政の最優先課題であると述べられています。
李家超氏は、2026-27年度からの5年間において、公営住宅(簡易公営住宅を含む)の総建設戸数が189,000戸に達し、就任時に比べ約80%増加し、3年前、公営住宅の申請者が入居まで平均6.1年待つ必要があったのに対し現特区政府の3年以上にわたる努力により、公営住宅の総合待機期間は1年短縮され5.1年となり、2026-27年度に4.5年まで短縮するという目標にさらに近づいたと示しています。
施政報告では、公営住宅の供給が持続的に増加している状況を踏まえ、特区政府が市民の持ち家支援を強化する方針を示しました。
具体的には「居者有其屋計画(居屋)」および「緑表置居計画(緑置居)」の供給を拡大し、販売・譲渡の制度を改善することで、より多くの公営住宅居住者の持ち家実現を支援します。また、補助付き分譲住宅の所有者が民間住宅市場に参入しやすくすることで、住宅階層の多様化を図り、各層の市民が安心して暮らせる環境を整備します。
また、香港の不動産市場については、今回の施政報告では、新たな資本投資家入境計画を最適化し、住宅物件への投資が投資額に算入される際の取引価格基準を引き下げることが明記されました。
具体的には、非住宅物件の購入については、投資額に算入可能な金額が1,000万香港ドルから1,500万香港ドルに引き上げられ、物件の取引価格自体に制限が設けられていません。
一方、住宅物件を購入する場合、算入可能な金額は1,000万香港ドルで据え置くが、算入可能な住宅物件投資基準が緩和され、取引価格基準が5,000万香港ドルから3,000万香港ドルに引き下げられます。
【参考資料】
详解香港施政报告:北部都会区强力提速,黄金与数字资产抢滩未来
*本記事が記載されている大湾区レターは、以下のリンク先からダウンロードしていただけます。
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