国家レベルのペイシェントキャピタル、大湾区に誕生【大湾区情報レター Vol.102】
- 公開日 2026.06.5 | 大湾区(グレーターベイエリア)情報
「大湾区情報レター」では、今後、日系企業の皆様に有用と考えられる最新情報をピックアップしお届けしていきます。
新たな質の生産力を育成するには、「忍耐強い資本」(ペイシェントキャピタル)の戦略的投入が欠かせません。
ペイシェントキャピタルとは、その名の通り、短期的な利益や早期の投資回収を求めず、忍耐強く資金の回収に数年〜十数年ほどの長期的な視点で事業の成長を優先する投資形態のことで、成長までに時間がかかる技術や社会課題解決などの分野に投資されます。またこのようにその国や地域の産業育成や経済インフラの整備を目的に拠出されるため、政府系ファンドや公的資金が担うことが多く見受けられます。
Contents
国家レベルの”大湾区ベンチャー投資促進ファンド”
4月2日午後、広東省(粤)とベンチャー、イノベーションプロジェクト(創)と金融・投資機関(金)をつなぐ「粤創金橋」イベントが広州市にて開催され、大湾区ベンチャー投資促進ファンドの政策説明会が行われました。
本イベントは「大湾区の資本を結集し、科学技術イノベーションの未来を切り拓く」をテーマに、ベンチャーキャピタル機関、科学技術イノベーション企業、金融・産業プラットフォームを対象として開催されました。
イベントの最大の主役は、広東省が認めた初の国家レベルマザーファンドでもある”大湾区ベンチャー投資促進ファンド”(以下、大湾区ベンチャーファンド)で、国家レベルのファンドに関する政策の全貌を解説し、「粤創金橋」による投資、融資マッチングを深化させ、新たな質の生産力の育成を加速させ、大湾区が世界的影響力を持つ国際科学技術イノベーションセンターとなることを支援することが目的だとしています。
この国家レベルのペイシェントキャピタルでもある大湾区ベンチャーファンドは、大湾区への重要戦略として、具体的にどのような分野にどのような方法で投資していくのでしょうか。
数千億元の民間資本投資を呼び込み
大湾区ベンチャーファンドは、国家ベンチャー投資促進ファンドが主導し、地方政府、中央政府系・国有企業、金融機関、民間資本などが共同出資して設立されたマザーファンドプラットフォームです。
2025年末、大湾区ベンチャーファンドが深圳前海にて設立登記され、深圳市創新投資集団(以下「深創投」)がその運用管理チームを務めています。
深創投董事長左丁氏は、
この総額504億5,000万人民元のファンドは、数千億元規模の民間資本を誘致し、大湾区の重点産業分野へ投資することで、数兆元規模の戦略的新興産業及び未来産業クラスタの形成を支援します。
と説明しました。
3月3日、大湾区ベンチャーファンドは最初のプロジェクトへの出資を完了させ、現在までに、デューデリジェンス進行中の設立が承認された15の子ファンド(総規模約86億人民元)の内、8つの直接投資プロジェクトにおいて投資が決定されています。そしてこの子ファンドと直接投資プロジェクトの累計投資額は27億人民元を超えています。
2025年末、国家ベンチャー投資促進ファンドは、中国経済を牽引する三大中核都市クラスター(巨大経済圏)である、京津冀(北京・天津・河北省)、長江デルタ、大湾区の3地域において、ファンドの設立を推進していました。ある業界関係者は、
この3つの地域ファンドの中で、大湾区ベンチャーファンドが、国家の承認規模に最も早く達成し、最も早く初回資金を全額払い込み、最も早くプロジェクトへの資金投入を実現した!
と説明しています。
大湾区ベンチャーファンドは、「早期投資・小規模投資・長期投資・ハードテクノロジーへの投資」を堅持し「子ファンド+直接投資」モデルを通じて、戦略的新興産業と未来産業に重点的に投資し、中核技術の研究開発や科学技術成果の事業化を支援し、財政資金のレバレッジ効果を発揮させ、民間資本を誘導し大湾区の科学技術イノベーションと産業高度化に貢献していきます。
資金の70%以上をシード期・起業初期段階に投資
イノベーションテクノロジープロジェクトの初期段階は、研究開発コストへの投資がかさみ、期間も長く、リスクも高いため「ペイシェントキャピタル」による長期的支援が本来必要とされています。
しかし現実には、多くのベンチャーキャピタルファンド自体の存続期間が短かかったり、機関投資家は、業績評価のプレッシャーにより、リスクの低い中後期のプロジェクトに投資する傾向があったりするため、初期段階で投資を行い、そこから長期間にわたって全行程に寄り添うことを真に望む資金は依然として不足しています。
大湾区ベンチャーファンドの制度設計は、まさにこの状況を打開しギャップを埋めるために生まれました。
大湾区ベンチャーファンドは、投資可能資金の70%以上をシード期または起業初期の企業、すなわちシリーズAラウンド以前の初期段階においてのみ子ファンドより投資することが義務付けられており、投資先の観点からすると、最も高いリスクと最も長い期間を伴うイノベーションの最前線に正面から向き合うことをことになります。
また、新興基幹産業や未来産業を重点的に支援するため、子ファンドの資金の60%を特定の産業分野に集中投資することで、子ファンドが細分化された分野を深く掘り下げるように誘導しています。
運用期間においてファンドの存続期間は最長16年で、さらに20年を超えない範囲で延長することが可能であり、ハードテクノロジープロジェクトの実際の成長サイクルに真に適合した設計となっています。
大湾区ベンチャーファンドはさらにエラーに対する寛容・免責メカニズムを明確化し、単一プロジェクトの損益を業績評価の根拠としないことを打ち出しています。
地元への一定割合の再投資義務「返投」の廃止
これを踏まえ、大湾区ベンチャーファンドは市場化運営においてもさらに一歩前進しています。
長年にわたり、政府系ファンドの枠組みにおいて、いわゆる「返投」(リターン投資/地元への一定割合の再投資義務)は避けて通れない概念でした。
これは、ファンドに対し一定割合の資金を地元に投資することを求めるものであり、ほとんどの地方政府系ファンドにおいて慣例であり、多くの市場化された投資機関が政府資本との連携に際の懸念点ともなっていました。
国家ベンチャー投資促進ファンドはこの慣例を打ち破り、地域ファンドおよび子ファンドに「返投」義務の比率を設定してはならないと明確に定め、市場原理に基づく投資案件選定における独立性を最大限に保障しています。
さらに、大湾区ベンチャーファンドには複数の禁止事項が設けられており、ネガティブリストによって投資対象の境界線を引き、国家の「忍耐強い資本」を、最も必要とされる初期段階のイノベーション分野に確実に集中させることを目的としています。
例えば、成熟企業の既存株式の引き受け、資金調達ニーズのない企業への投資、「名目上は株式だが実質は債務」となる強制買戻し条項の設定などが禁止されています。
【参考資料】
*本記事が記載されている大湾区レターは、以下のリンク先からダウンロードしていただけます。
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本記事の目的:
本記事は、主に中国へ進出されている、またはこれから中国進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、中国国内での経営活動や今後の中国ビジネスに重大な影響を及ぼしうるような国家・地方レベルの最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
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