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【中国労働法シリーズ】③ 競業避止義務の適正化-濫用的条項の是正

 

この度、中国最高人民裁判所より公布された「労働争議案件における法律適用に関する解釈(二)」(以下、「解釈」という)及び関連の典型判例が公布されました。

 

このことを背景とした記事を「中国労働法シリーズ」として、これまで第一回目は、【中国労働法シリーズ】①「労働争議解釈(二)」が社会保険未納に与える衝撃、そして第二回目の記事は、【中国労働法シリーズ②】労働契約が未締結であった場合に支払う、2倍賃金が免除される事由、明確に規定を発表させていただきました。

 

今回は、本シリーズの第三回目の記事として、競業避止義務の濫用問題や、競業避止義務の有効性といった「競業避止義務の適正化-濫用的条項の是正」というテーマでご紹介いたします。

 

 

一、競業避止義務条項濫用の適正化

競業避止義務条項とは、労働契約または秘密保持契約における約定の一つであり、労働者が退職後一定期間・一定地域内において、元の雇用主と競合する業務への従事や同種事業の経営を行うことを制限する規定です。

 

この社会的関心が高い競業避止義務条項の有効性問題について、「解釈二」では以下の通り規定されています。

 

第13条 労働者が雇用主の営業の秘密や知的財産に関わる秘密事項に精通しておらず、または接触していない場合、労働者が競業避止義務条項の無効確認を求めれば、人民法院は法に基づきこれを支持する。

 

また、競業避止義務条項において定められた競業避止の範囲、地域、期間などの内容が、労働者が熟知・接触した営業の秘密事項や知的財産に関わる秘密事項の内容と一致していない場合、労働者が競業避止義務条項のうち一致しない範囲を超える部分の無効確認を求めれば、人民法院は法に基づきこれを支持する。

 

 

青葉の解説:

要するに今回の新規定は、競業避止義務を過度に適用する問題に対して、以下の二重の制約を設けています:

 

営業の秘密事項に触れていない一般社員については、競業避止義務条項は一律無効

 

秘密事項に関与する社員については、競業が禁止される範囲・地域・期間の秘密事項がその社員が熟知した内容と合致していなければならず、そうではない部分については無効

 

 

 

二、典型的な判例

ここでは、解釈とともに公表された「競業避止義務の適正化」に関する典型的な判例をご紹介します。

 

 

【労働争議典型判例4】— 某甲医薬公司と鄭氏の競業避止紛争

労働者が負う競業避止義務は、その労働者が知悉した営業秘密および知的財産関連の秘密事項の範囲と適合する必要がある

 

 

基本状況

D氏は某甲医薬会社(主にバイオ医薬事業を営む)に入社し、生産運営部チーフテクノロジーオフィサー(CTO)として務めていた。在職期間中、D氏は関連会社である某乙医薬会社の2種類の医薬品の化学成分に関する生産・管理詳細などの秘密情報に接触していた。

 

D氏は2021年9月29日に退職願を提出し、競業避止義務契約を締結した。競業避止義務期間は24ヶ月と定められていた。退職後、D氏は某生物会社に入社し上級副社長に就任したことを某甲医薬会社に通知した。

 

2022年2月、某甲医薬会社は某生物会社が自社と同じくバイオ医薬企業であり競合関係にあるとして、D氏が競業避止義務契約に違反したと主張し、労働人事争議仲裁委員会に仲裁を申し立てた。具体的な請求内容は、D氏に対し、競業避止違約金710万元の支払い、損害賠償100万元、支払済みの経済補償金196,185元の返還、及び競業避止義務契約の継続履行を求めるものものであった。

 

しかし仲裁委員会は法定期限超過を理由に審理を終結したため、某甲医薬会社は不服として人民法院に提訴した。

 

 

 

裁判結果

審理法院は、まず法律的な観点において、労働者の競業避止義務範囲は競業避止制度による保護事項の必要範囲内に限定されるべきであり、労働者が熟知している関連企業の営業の秘密事項及び知的財産権に関連する秘密事項の範囲内である必要がある。

 

本案において、某甲医薬会社とD氏が合意した競業避止対象には、関連会社である某乙医薬会社も含まれているが、D氏が接触したのは某乙医薬会社の2種類の医薬品に関する秘密情報のみであったため、D氏に課される競業避止義務は当該2種類の医薬品に限られるべきである。

 

さらに、競業避止紛争事件における、競合関係にある他の雇用主とは、密接な代替関係にある製品またはサービスを提供できる他の雇用主を指すと解される。そのため、バイオ医薬企業間の競合関係については、取り扱う医薬品の適応症、作用機序、臨床投与計画等に基づき、医薬品間の代替可能性を考慮した上で判定すべきとなる。

 

D氏が入社した某生物会社の製品と、某甲医薬会社の製品、某乙医薬会社の前述2種類の医薬品と比較したところ、いずれもがん治療製品を含むものの、適応症と投与計画の観点から代替性が認められない。

 

審理法院はこれに基づきD氏が入社した会社は、某甲医薬会社またはその関連企業と同種の製品の経営や、同種の業務に従事する競合関係にある他の雇用主に該当しないと判定し、某甲医薬会社の全ての訴訟請求を棄却する判決を下した。

 

 

 

判例解説

人材は中国式現代化の基盤的・戦略的支柱の一つである。「中国共産党中央委員会による全面的な改革深化、中国式現代化推進に関する決定」では「人材の秩序ある流動メカニズムの整備」が提唱されている。

 

労働契約法に競業避止制度を規定している主な目的は、雇用主の営業の秘密事項及び知的財産権関連の秘密事項を保護し、不正競争を防止することにあり、人材の秩序ある流動を制限するものではない。人民法院は競業避止紛争事件を審理する過程において、労働者の職業選択の自由と市場競争の公平性とのバランスを適切に図りつつ、人材の秩序ある流動と合理的な配置を促進すべきである。

 

本件において、労働者は競業避止対象者に該当する。人民法院は、当事者間で合意された競業避止範囲に雇用主の関連会社が含まれる場合、労働者に課される競業避止義務を、当該労働者が実際に精通した関連企業の営業の秘密事項および知的財産権に関連する秘密事項の範囲内に限定した。

 

さらに、当事者は専門知識を有する者の入廷の許可を申請し、関連医薬品の技術原理・適応症・投与計画及び労働者の新規雇用先と元雇用主の経営製品間に密接な代替関係が存在しないことを補助的に立証させた。これにより、両社間に競合関係が存在しないことを明確に認定し、ハイテク人材の秩序ある流動を保障した。

 

統計によれば、2024年に北京の裁判所で終結した競業避止事件の34%は、非機密職種に関するものであり、この新規定によりそのような濫用は終息していく見込みである。

 

 

 

三、企業が直面するリスク —— 営業秘密保護の制限

競業避止の適用対象が大幅に縮小することにより、従業員の職の選択といった自由が守られる一方で、企業としては以下のような状況により、一定のリスクに直面することにも留意が必要といえます。

 

フロント業務、総務、一般作業員などの非機密職種に従事する従業員には競業避止契約を締結できなくなった。

コア技術職種に対する競業避止の範囲は、当該従業員が実際に熟知した営業の秘密事項の範囲を超えてはならない。

 

 

 

四:企業のコンプライアンス対応実務ガイド —— 競業避止の精密再構築

以下のフローチャートは、本件において企業として対応していただくことが推奨される競業避止の再構築フローとなります。

 

まずは自社の秘密に関連するリストの洗い出し、その種類とレベルの分類、該当する従業員との秘密に関する取扱いの締結や約束といった流れとなります。

 

 

 

 

競業避止義務条項は企業の秘密情報を保護する重要な法的手段ですが、その有効な活用には法的バランスが求められます。本記事をご参考頂き、その一助となれば幸いです。

 

 

 

最後に

弊所青葉法律事務所は、華南地域における労働紛争処理に関して豊富な経験を有しております。ご不明点やご要望などがございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考リンク先:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本記事の目的:

本記事は、主に中国本土や香港へ進出されている、またはこれから進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、中国本土や香港での経営活動や今後のビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。

免責事項:

  1. 本資料はあくまでも参考用として作成されたものであり、法律や財務、税務などに関する詳細な説明事項や提案ではありません。
  2. 青葉コンサルティンググループ及びその傘下の関連会社は、本報告書における法律、法規及び関連政策の変化について追跡報告の義務を有するものではありません。
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