【中国労働法シリーズ】④ 涉外労働関係管理へのヒント

この度、中国最高人民裁判所より「労働争議案件における法律適用に関する解釈(二)」(以下、「解釈」という)及び関連の典型判例が公布されました。
これを背景にした解説記事を「中国労働法シリーズ」として、これまで第三弾まで発表してまいりましたが、今回は、本シリーズの第四弾として、「涉外労働関係*」というテーマについて、説明いたします。ぜひ、過去の記事も合わせてお読みいただきますと幸いです。
【過去記事:以下のリンクをクリックすると御覧いただけます。】
第一弾:【中国労働法シリーズ】①「労働争議解釈(二)」が社会保険未納に与える衝撃
第二弾:【中国労働法シリーズ】②労働契約が未締結であった場合に支払う、2倍賃金が免除される事由、明確に規定
第三弾:【中国労働法シリーズ】③競業避止義務の適正化-濫用的条項の是正
*渉外労働関係とは:
国境を越えた労働契約や雇用関係を指す法的概念で、異なる国の法律が関係する労働関係のことです。簡単に説明すると、主に「中国人従業員が海外の会社または外国企業の常駐代表機構で働く」及び「外国人従業員が中国の企業で働く」という2パータンがあります。
涉外労働関係の関連規定とその解説
まず、涉外労働関係の関連規定はこちらです。
第四条
外国人が中華人民共和国国内の雇用主と労働関係を確立する場合、以下のいずれかの条件に該当し、かつ当該外国人が雇用主との間に労働関係が存在することを確認するよう求めたときは、人民法院は法に基づきこれを支持する。(一)永住資格を取得していること
(二)就労許可を取得し、かつ中国国内で合法的に滞在・在留していること
(三)国家の関連規定に従い必要な手続きを完了していること
第五条
法律に基づいて設立された外国企業の常駐代表機構*は、労働争議事件の当事者となることが可能である。当事者が関連外国企業を訴訟参加として追加するよう申請した場合、人民法院は法に基づきこれを支持する。
*外国企業の常駐代表機構(代表処)とは:
外国企業が中国国内に設立することができる、非営利の業務連絡拠点のことです。(駐在員事務所と呼ばれたりします。)あくまで「代表機構」であり、独立した法人格( Limited Liability Company / LLC)を持つ「子公司」(現地法人)とは異なります。
青葉の解説:
今回の公布内容により、従来の涉外労働関係にかかわる紛争に関し、双方向の涉外労働関係における責任が明確化されました。主な注意事項は下記の通りです。
- 外国企業の常駐代表機構を直接被告として提訴可能
- 裁判所は海外の親会社を共同被告として追加することが可能
- 外国人が労働関係を主張する場合、永住権・合法的な就労許可・適正な手続きのいずれかの条件を満たす必要あり
また、今回最高人民裁判所が公布した内容において、「涉外労働関係」に関する判例がなかったものの、外資系企業にとって、涉外労働関係の管理及びリスク防止が非常に重要になるかと思われます。
したがって、弊社よりアドバイスを下記に提示いたします。
- 許可・証明書確認:外国人の採用時には、就労許可証と在留資格証明書を確認すること
- 代表事務所の規制:海外の親会社と補充保証契約を締結すること
- 紛争予防策:海外の当事者に対する宛先住所を事前に確保し、公示送達による遅延を回避すること
このように、自社の労務管理状況を改めて見直し、必要な対策を講じることをお勧めいたします。特に、中国で働く外国人従業員のみならず、海外の会社で中国人従業員を採用している場合においても、「二重コンプライアンス保障」の観点から、渉外労働関係管理を徹底する必要があります。
最後に:
もちろん、涉外労働関係における実務上の対応について、各企業の状況により、ケースバイケースで対応しなければならないことがあるかと思います。ご懸念点やご不明な点などがございましたら、Aobaグループには経験豊富な弁護士が多数在籍しておりますので、いつでもお気軽にお問い合わせください。
参考リンク先:
本記事の目的:
本記事は、主に中国本土や香港へ進出されている、またはこれから進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、中国本土や香港での経営活動や今後のビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
免責事項:
- 本資料はあくまでも参考用として作成されたものであり、法律や財務、税務などに関する詳細な説明事項や提案ではありません。
- 青葉コンサルティンググループ及びその傘下の関連会社は、本報告書における法律、法規及び関連政策の変化について追跡報告の義務を有するものではありません。
- 法律法規の解釈や特定政策の実務応用及びその影響は、それぞれのケースやその置かれている状況により大きく異なるため、お客様各社の状況に応じたアドバイスは、各種の有償業務にて承っております。
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