【中国労働法シリーズ】最終回 – 違法な再委託・下請け(外注)を根絶せよ

この度、中国最高人民裁判所より「労働争議案件における法律適用に関する解釈(二)」(以下、「解釈」という)及び関連の典型判例が公布され、同時に、企業の雇用管理に対しても新たかつより高い要求が提起されています。企業は重点的に注目し、これに基づいて自らの雇用管理行為を調整し規範化する必要があります。
これを背景にした解説記事を「中国労働法シリーズ」として、これまで第四弾まで発表してまいりましたが、今回は、本シリーズの最終回の記事として、「違法な再委託・下請け(外注)を根絶」というテーマをめぐって、ご紹介いたします。労働者を安全かつ効果的に雇用する方法を知ることは、外資企業にとって依然として重要なポイントとなるため、詳しく解説してまいります。ご参考になれば幸いです。
【過去記事:以下のリンクをクリックすると御覧いただけます。】
第一弾:【中国労働法シリーズ】①「労働争議解釈(二)」が社会保険未納に与える衝撃
第二弾:【中国労働法シリーズ】②労働契約が未締結であった場合に支払う、2倍賃金が免除される事由、明確に規定
第三弾:【中国労働法シリーズ】③競業避止義務の適正化-濫用的条項の是正
第四弾: 【中国労働法シリーズ】④ 涉外労働関係管理へのヒント
Contents
一、使用者責任の徹底:違法な再委託・下請け(外注)を根絶
この数年、使用者としての雇用責任を回避するため、個人と雇用契約を結ぶのではなく、業務再委託や下請け(外注)などの方式を用いて、個人と請負契約を結ぶことで、雇用に関するリスクを請負業者(個人)に転嫁する事例が見受けられます。
このような状況において、労働者が自身の合法的権益をどのように守るべきかについて争点となっており、今回の最高裁による労働争議に関する司法解釈の中で、業務の再委託または下請けに関する規定は以下の通りとなりました。
【規定】
第一条 合法的な営業資格を有する請負業者が、その請負業務を合法的な営業資格を有しない組織または個人に再委託または下請けした場合、その組織または個人が雇用する労働者が、当該請負業者を「労働関係上の責任主体」として認定し、賃金の支払い、労働災害認定後の労働災害保険給付等の責任を果たすべきであると請求したときは、裁判所は法律に基づきこれを支持するものとする。
青葉の解説:
建築・物流などの業界に広く存在する「請負業者—農民工」という労務形態を対象に、「解釈(二)」は初めて「使用者責任」の規則を確立しました。
- 合法的な請負業者が、業務を無資格の事業者や個人などに再委託する場合、その最終労働者である個人に対して労働報酬の支払い、労災保険の補償などに関する責任を負う必要がある。
- 無資格組織が資格を有する組織に名義を借りて営業を行う場合、名義貸しを受けた組織は同等の責任を負う。
これまで主に労災補償の処理を対象としていたこととは異なり、本条2つの規定は、責任範囲を労働報酬の支払い、及び労災認定後の労働災害保険待遇などの責任にまで拡大したため、実質的に資格を有する主体が、業務を受託・請負っている、無資格の事業者を通したとしても、労働者に対して、最終的な責任を負わなければならないリスクを高めています。
二、典型的な判例
続きまして、解釈とともに公布された、「違法な再委託・下請け(外注)を根絶」に関わる典型的な判例を、ご紹介します。
【労働争議典型判例1】—ある建設会社とC氏の労災保険給付紛争事件
再委託・下請け工事の請負業者が雇用した労働者が労災と認定された場合、元請負業者は労災保険給付の支払責任を負う
【基本案情】
ある建設会社が請け負った工事を、R氏に下請けに出した。2021年8月、R氏はC氏を現場作業員として採用した。(別の事案において、当該建設会社とC氏の間には、労働関係が存在しない旨が判決されていた。)2021年10月10日、C氏は作業中に高所から転落して負傷を負い、腰椎骨折と診断された。
2023年3月14日、人事部門社会保障部門は「労災認定決定書」を発行し、C氏の負傷を労災と認定し、当該建設会社がC氏の労災に対する労災保険責任を負うとした。労働能力鑑定委員会の鑑定により、C氏の労働機能障害等級は8級、生活自理障害等級は該当せず、休業保障期間は6ヶ月と確定された。
C氏は労働人事争議仲裁委員会に仲裁を申請し、当該建設会社が8級障害に該当する労災保険待遇の支払いを求めた。労働人事争議仲裁委員会はこれを支持したため、当該建設会社はそれを不服として人民法院に訴訟を提起した。
【裁判結果】
裁判所は、『最高人民法院による労災保険行政事件の審理に係る若干の問題に関する規定』に基づき、労災保険責任の負担は、労働関係の存在を前提条件としないことを指摘した。そのため、建築工事が個人に下請けされた場合であったとしても、労災事故が発生したときは、労働者使用主体資格を有する請負業者が労働災害保険責任を負うべきであるとした。
本件において、当該建築会社は本件工事をR氏に請負わせ、R氏が雇用したC氏が工事中に負傷し、労災と認定された。当該建築会社とC氏の間には労働関係が存在しないものの、当該建築会社は本件工事の請負業者として、依然として労災保険責任を負う必要がある。当該建築会社がC氏のために労災保険料を納付していない場合、裁判所は、当該建築会社に対し、C氏に相当する労災保険給付を支払うよう判決を下した。
【判例解説】
現状として、一部の請負業者は直接雇用の労働法義務を回避するために、請負業務を合法的な経営資格を備えていない組織や個人に再委託・下請けすることがある。このような組織または個人は、多くの場合、相応する法的責任を負担する十分な能力を有していない。
『最高人民法院による労災保険行政事件の審理に係る若干の問題に関する規定』第3条第1項の規定は、「社会保険行政部門が以下に例示する企業を労災事故の責任主体であると認定した場合、人民法院はこれを支持する……(四)雇用主が法律や法規の規定に違反して、請負業務を用工主体資格を有しない組織または自然人に請負業務を再委託し、当該組織あるいは自然人が受け入れて雇用した労働者が業務中に労災で死傷した場合、もともと労働者を雇用していた単位が労災事故の責任を負う。」と明記している。
そのため、労災が発生した後、労働者は社会保険行政部門に労災認定を申請することができ、下請負業者が労災保険責任を負う対象となり、労災が認定された後、請負業者が労働者に対して労災保険料を納付していない場合、労働者は当該請負業者に労災保険待遇の支払い責任を履行するよう請求することができる。
本件において、請負業者が労災保険待遇の支払い等の労働者使用主体責任を負う規則は、下請け・再委託行為に対する否定的な評価を体現しているとともに、労働者が労災発生後に迅速な救済を受けることを可能にし、建築市場秩序の健全化及び規範化を促進し、労働者の合法的権益を十分に保護するものである。
三、リスク軽減のための対策
上述の背景を踏まえ、実務上、法務リスクを低減するための、いくつの対策をご紹介しますので、ご参考ください。
- 下請け審査:請負業者の資格年次審査制度を確立し、資格のない主体は拒否する。
- 名義貸し禁止:外部主体による名義を借りた営業行為を明確に禁止する。
- 関連雇用:グループ内で労働主体を明確にし、「三者確認書」をもって責任の帰属を確定させる
最高人民法院の労働争議に関する司法解釈では、合法的な請負業者が業務を用工主体資格を有しない組織または自然人に再委託する場合、たとえ双方が労働関係を構成しなくとも、当該請負業者は依然として労働者に対して賃金の支払いや労働災害保険待遇などの用工主体責任を負わなければならないと明確に規定されています。
この規定は、違法な再委託・下請け行為を抑制し、労働者の合法的な権益を実質的に保障することを目的としており、建設業などの分野において重要な実践的な指導という意義を持ちます。したがって、企業が業務の再委託・下請けを行う際には、協力先の用工主体資格を厳格に審査し、法的資格を有しない主体との協力を避けるとともに、労働者に対して法に基づき労災保険を納付し、法的リスクを低減し、社会的責任を適切に履行する必要があります。
最後のまとめ
「中国労働法シリーズ」として5回にわたりご紹介いたしました、『労働争議案件における法律適用に関する解釈(二)』に関する内容は、これですべて終了いたしました。最後に本件について一言でまとめると、「背後にある司法価値の新規転換」であると言えます。そして『解釈(二)』は、以下のような労働司法理念の深い変革を示しているとも言えます。
- 形式の平等から実質の公平へ:契約の外観に潜む実質的な雇用関係を見極める
- 個別救済から源流管理へ:判決ルールにより企業に予防メカニズムの構築を促す
- 放任型イノベーションからバランス点の模索へ:商業利益の保護と就業の自由の保障のバランスポイントを模索
労働法は、労働者の保護、企業行動の規範化、社会的な公平性と経済の調和ある発展の促進において、重要な役割を果たしています。前述の理由に基づいて、企業が回避ではなく法律で規定された権利と義務を厳格に遵守し、積極的に新規定の核心を管理基準へ転換すべきであると言えます。
中国は地域によって労働実務の運用が異なり、各地域の地方規定を確認することが極めて重要です。何かご懸念やご質問がございましたら、経験豊富な弁護士が在籍するAobaグループに、いつでもお気軽にお問い合わせください。
参考リンク先:
本記事の目的:
本記事は、主に中国本土や香港へ進出されている、またはこれから進出を検討されている日系企業の皆様を対象に、中国本土や香港での経営活動や今後のビジネスに重大な影響を及ぼしうるような最新の法律法規と関連政策の主な内容とその影響、日系企業をはじめとする外資系企業の取るべき主な対策などを紹介することを目的として作成されています。
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